研究課題
昆虫の脱皮・変態は前胸腺が分泌する脱皮ホルモン(エクジステロイド)により誘導される。前胸腺のエクジステロイド分泌活性の調節は脳神経ペプチドである前胸腺刺激ホルモン(PTTH)によってなされていることから、昆虫の発育調節の理解には、PTTHおよびその受容体の研究が不可欠である。しかし、近年のPTTH研究の進歩に比べ、受容体の研究は遅れており、本研究では、PTTH受容体研究の一環として新規受容体の同定を目指している。26年度は、PTTHと化学架橋した受容体分子候補を、抗PTTH抗体を使ったウエスタン解析により検出することに成功したが、精製には至らなかった。精製がうまく進まない原因は、前胸腺に存在する受容体分子が量的に少ないことに加え、前胸腺からの受容体タンパク質の可溶化がうまくいっていないことにあった。そこで27年度は可溶化法、精製法の改良に力を注いだ。数種の可溶化剤の試用および精製効率の向上を試みたが、途中で、実験に必要なHisタグを付けたPTTH(PTTH-His)のストックがなくなったため、新たにPTTH-Hisの作製に取り組む必要が生じた。大腸菌を使う方法およびバキュロウイルスと培養細胞を使う方法を実施したが、大腸菌による発現では組み替えタンパク質が可溶化できず、培養細胞による発現では合成されたタンパク質の精製がうまくできなかった。おそらくHisタグがPTTH分子内に巻き込まれ、タグとして機能しないものと推定される。この失敗を踏まえ、28年度にはPTTH合成の専門家を分担者として加えるとともに、PTTH受容体は前胸腺ばかりでなく他の組織にも発現する可能性を考え、受容体精製の出発材料を前胸腺以外の組織に求めるという新規の試みも行う予定である。
3: やや遅れている
前胸腺細胞膜からのPTTH受容体(候補)の可溶化をいくつかの方法で試みたが、期待するような回収率が得られなかった。その理由は、前胸腺という組織の特殊性にあるのかもしれない。前胸腺は同一細胞から成る単純な組織ではあるが、周りを鞘状の構造(sheathe)で覆われており、この構造が膜タンパク質の可溶化を困難にしている可能性がある。また、不足したPTTH-Hisを自力で作製する試みを行ったが、うまくいかなかった。今年度は熟練した研究者を分担者として加え、技術的な問題を解消したい。
前胸腺細胞膜からのPTTH受容体溶出の効率化をさらに模索するとともに、前胸腺以外の組織を精製の出発材料とすることも検討する。PTTH受容体が前胸腺以外の組織で発現しているとの報告はないが、オオサシガメにおいて、PTTHの投与が他の組織(脳・唾腺・脂肪体)の特定タンパク質の発現量に影響するとの報告がある。したがって、そうした組織にも前胸腺で発現するPTTH受容体と同じタンパク質が発現している可能性は十分に考えられる。もし、他組織でのPTTH受容体候補の存在が確認されれば、出発材料の量の問題と可溶化の難しさの問題が一気に解決する可能性がある。まずは、その可能性を検証する予定である。もし、適切な組織が見つかれば、それを出発材料として、PTTH受容体の精製と構造決定という当初の計画を予定通りに推し進める。
次年度使用額の19232円は、27年度使用額が予定よりもやや少なかったことによる残額である。基金なのでそのままとした。
28年度の請求額と合わせて使用する。少額なので当初の助成金の使用計画には影響がない。
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