ゲノムの高次構造は厳密に制御されており、その核内収納は転写制御と密接に関係している。前年度までに昆虫細胞におけるDNAメチル化機構とその制御について、カイコDNAメチル基転移酵素軍の諸性質を明らかにし、DNAメチル化により制御を受ける遺伝子を同定した。本年度は、特に、染色体のループ形成に関与し、染色体を別々のドメインに分割することで、ループ外からのエンハンサー作用や、ヘテロクロマチンの無秩序な広がりを抑えるカイコインシュレーター遺伝子群の構造と機能解析を行った。まず、カイコCTCF、CP190遺伝子に加え、ZW5、BEAD32、FAB8、GAGA遺伝子を同定した。これらのインシュレーター機能を解析するために、エンハンサーブロッキング活性を指標としたインシュレーターアッセイ法の構築を行った。このアッセイシステムのUAS部位に、転写活性化因子GAL4-ADや同抑制因子GAL4-Giantをテザリングするとその転写が増減することから、アッセイ系としては機能することが確認できた。そこで、GAL4-CTCFやGAL4-CP190をテザリングしたところ、上流のエンハンサー活性を40%程度抑制することができたことから、インシュレターとして機能していることが示唆された。次に内在性遺伝子のエンハンサーブロッキング活性を指標としたアッセイ系を構築するために、CRISPRiシステムの導入を試みた。まず、遺伝子抑制システムの構築のためにdCAS9-Giant発現ベクターを構築し、核内15遺伝子を標的とするpU6-sgRNA プラスミドの作製を終了した。その内、アポトーシス抑制遺伝子を標的としたCRISPRiをカイコ培養細胞を用いて行ったが、RNAi法と比較してアポトーシス誘導活性は低かった。CRISPRiによる遺伝子抑制の効率化を目的に、現在、dCAS9-Giant発現ベクターの改良を行っている。
|