研究実績の概要 |
カイコ胚子のガラス化凍結の有効性を検討した。ガラス化凍結法は、水分子がガラス化状態で凍結し、凍結障害が軽減されるという方法である。問題点はガラス化状態を作り出す高濃度なエチレングリコールが細胞死を起す点であるこれを軽減する条件設定がカギである。ショウジョウバエ胚子のガラス化凍結方法 (Mazur et al., 1992) を参考にした。0.75M エチレングリコール (EG) 液で10分間なじませた後、2M EG液で20分間, 次いで8.5M EG液で8分間処理し液体窒素で凍結したところ、融解後の培養で孵化個体が得られた。しかし、孵化幼虫は摂食することなく死亡した。ガラス化液で処理後、凍結処理を行なわずに培養した場合でも、孵化幼虫が摂食することなく死亡した。そこで次に、孵化幼虫が摂食し、生存が可能となるガラス化液のEG 濃度の測定を行なった。各濃度のEG 液で処理後、凍結せずに培養を行なったところ、EG 濃度が8M 以下では摂食して2齢以降まで生存できる個体が観察された。摂食した孵化個体の割合は、処理したEG 濃度の増加と共に減少した。また、5M 以上のEG で処理を行なった場合は孵化幼虫に勢いが無く、発育の遅れがみられることから、ガラス化液に用いるEG の濃度を4M に決定した。ここで、4M EG 液は液体窒素下でガラス化しないため、次に、スクロースおよびトレハロースを加えることでガラス化し得る溶液を調整し、それらの溶液で処理した除殻卵からの孵化幼虫が生存できるかどうかを観察した。その結果、4M EG を含むいずれの濃度のガラス化液で処理した場合でも、孵化幼虫が摂食して2齢以降まで生存できる個体が観察された。もう1つの課題として、カイコで開発した生殖巣を用いた凍結保存をエリサン、シンジュサンで試み、両種で共に凍結保存が可能であることを認めた。
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