研究課題/領域番号 |
26660278
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平野 恒 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 助教 (10456618)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 糖化性 / イネ / 細胞壁 |
研究実績の概要 |
本研究はイネ科のモデル植物であるイネを材料とし、セルロースからグルコースへと変換し易い(易糖化)変異体の探索および易糖化の機構を解明することを目標としている。平成26年度は以下の研究を実施した。 1.新たな易糖化変異体の選抜ーさらなる易糖化系統を選抜する目的でイネ変異体150系統の糖化性評価を行なったところ、元品種に比べ糖化性に違いのある変異体はいくつか見出されたものの、優位に増加している変異体は選抜されなかった。またセルロース量が優位に増加した変異体も得られなかった。 2.易糖化イネの細胞壁分析ー易糖化108変異体の細胞壁成分分析を行なったところ、セルロースやキシラン量は元品種と同程度であったが、リグニン量が元品種に比べおよそ半分に低下していた。一方、易糖化122変異体に関しては、セルロースやリグニン量は元品種と違いがなかったのに対して、キシロース量が元品種の2割程度減少していた。 3.易糖化イネ変異体の原因遺伝子の単離ー108系統はフラボノイド合成に関わるchalcone isomerase(GH1)をコードする遺伝子が欠失しており、このことが108系統の易糖化の原因であると考えられた。現在108変異体にGH1遺伝子を導入した形質転換イネの作出を試みている。GH1導入により108系統の糖化率が元品種と同程度になることを確認することで、GH1の欠失が易糖化の原因であることを確定する。 4.共発現解析から見出された細胞壁関連遺伝子の機能解析ー共発現解析を通じて二次細胞壁形成に関わることが予想された遺伝子の中から9遺伝子に注目し、候補遺伝子の機能を増強(発現を増加させる)または減少(発現を低下させる)させた形質転換イネの作出に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.新たな易糖化変異体の選抜ー保有する215変異体のうち150系統の糖化性評価を行ったが、優位に糖化性が高まった系統は得られなかった。今後残りの65系統の評価を行う。 2.易糖化イネの細胞壁分析ーこれまでに得られている易糖化2変異体のうち、108系統はリグニン、122系統はキシランの低下が易糖化の原因であると考えられた。 3.易糖化イネ変異体の原因遺伝子の単離ー108系統の解析から、フラボノイド合成酵素が欠失するとイネの糖化性が向上すると考えられた。 4.共発現解析から見出された細胞壁関連遺伝子の機能解析ー9つの遺伝子の発現を上昇あるいは抑制させた形質転換体の作出は現在順調に進展しており、今後得られる植物体の解析を平成27年度に行う予定である。 新たな易糖化系統が得られなかったことで今後の研究計画の若干の見直しが必要ではあるが、108および122変異体の解析および項目4.に関しては上術したように順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
以下に研究項目毎に記す。 1)易糖化イネの農業的形質の調査ーこれまでに得られている易糖化2変異体の農業的形質について詳細に調査する。調査項目としては、バイオマス量やバイオマス量を規定する稈長・穂数・子実収量・耐倒伏性などが挙げられる。また、糖化性の程度は圃場の状況や天候により大きく左右されるので、初年度に選抜した変異体については複数年に圃場に展開し調査を行ない、糖化性や細胞壁成分の再現性を確認する。 2)易糖化イネの原因遺伝子の同定およびそれらの機能解析ー共発現解析から見出された遺伝子を改変した植物の解析を行う。具体的には糖化性評価・細胞壁成分分析・細胞壁合成に関わる遺伝子の発現などである。また108と122変異体に関しては易糖化に至るメカニズムをより詳細に解明する。具体的には108系統のリグニンの質(モノリグニンの組成比)および122系統のキシランの質(キシラン側鎖に結合しているアラビノースやフェルラ酸の量)の分析などである。 3)易糖化植物を利用した高バイオマス育種ー項目2)で得られる植物のバイオマス量を測定することで、易糖化かつバイオマス利用に適した形質転換体を選抜する。
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