研究課題
本研究はイネ科のモデル植物であるイネを材料とし、セルロースからグルコースへと変換し易い(易糖化)変異体の探索および易糖化の機構を解明することを目標としている。平成27年度は以下の研究を実施した。1.新たな易糖化変異体の選抜。さらなる易糖化系統を選抜する目的でイネ変異体65系統の糖化性評価を行なったところ、元品種に比べ糖化性に違いのある変異体はいくつか見出されたものの、優位に増加している変異体は選抜されなかった。2.易糖化イネの細胞壁分析。昨年度、易糖化108変異体の細胞壁成分分析を行なったところ、リグニン量が元品種に比べおよそ半分に低下していたため、今年度はリグニンの組成を分析した。108ではリグニンおよびリグニン構成成分であるシリンギル・リグニンの減少が認められた。一方、易糖化122変異体に関しては、キシロース量が元品種の2割程度減少することを昨年度見出したが、より詳細な細胞壁成分分析によりヘミセルロース画分中のフェルラ酸の減少も認められた。3.易糖化イネ変異体の原因遺伝子の単離。108変異体にGH1遺伝子を導入した形質転換イネの作出を試みた。GH1導入により108系統の糖化率が元品種と同程度に回復したため、GH1の欠失が易糖化の原因であることが確定した。4.共発現解析から見出された細胞壁関連遺伝子の機能解析。細胞壁形成に関わる遺伝子を網羅的に同定するため、イネの二次細胞壁形成時に転写する遺伝子群を共発現ネットワーク解析により探索した。それらの内、9つの遺伝子に関して過剰発現・発現抑制させたイネを作出したところ、細胞壁に変化を起こしたイネに共通して観察される矮化・濃緑形質がすべての植物において認められた。現在、その内のlipocalinタンパク質をコードする遺伝子の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
以下に研究項目毎に達成度を記す。1.新たな易糖化変異体の選抜。65変異体の糖化性評価を行ったが、優位に糖化性が高まった系統は得られなかった。上記変異体群はこれまでに報告されている二次細胞壁に変化が生じたイネと類似した形態を示すため糖化分析を行ったが、単純に植物の形態から易糖化系統を得ることが極めて困難であることが示された。2.易糖化イネの細胞壁分析。これまでに得られている易糖化2変異体のうち、108系統はリグニン量の減少およびリグニン組成の変化、122系統はキシランおよびキシランの側鎖に結合するフェルラ酸の減少が易糖化の原因であると考えられた。3.易糖化イネ変異体の原因遺伝子の単離。108系統の相補性検定の実験からchalcone isomerase(GH1)が欠失すると易糖化に至ることが判明した。4.共発現解析から見出された細胞壁関連遺伝子の機能解析9つの遺伝子の発現を上昇あるいは抑制させた形質転換体はすべて細胞壁に変化を起こしたイネに共通して観察される矮化・濃緑形質がすべての植物において認められた。今後は、その内のlipocalinタンパク質をコードする遺伝子の詳細な解析を進めていく予定である。 新たな易糖化系統が得られなかったことで今後の研究計画の若干の見直しが必要ではあるが、108および122変異体の解析および項目4.に関しては上術したように順調に進展している。
以下に研究項目毎に記す。1)易糖化イネの農業的形質の調査。これまでに得られている易糖化2変異体の農業的形質について詳細に調査する。調査項目としては、バイオマス量やバイオマス量を規定する稈長・穂数・子実収量・耐倒伏性などが挙げられる。2)易糖化イネの原因遺伝子の同定およびそれらの機能解析。共発現解析から見出された遺伝子の内、リポカリンを過剰発現させたイネの解析を進めていく。具体的には糖化性評価・細胞壁成分分析である。また、108と122変異体に関しては引き続き易糖化に至るメカニズムをより詳細に解明する。3)イネ科植物のバイオマス利用に向けた戦略の構築。これまでに行なってきた研究を通じてイネ科植物がどのような機構により易糖化に至るのか、今後バイオマス利用を考えた場合、どのような育種戦略をとるのが最も効果的であるかなど包括的な方向性を見出す予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件)
Plant Physiology
巻: 167 ページ: 531-544
doi: 10.1104/pp.114.247940.
巻: 169 ページ: 705-716
doi: 10.1104/pp.15.00928.