研究課題
本年度はまず、ヨコヅナクマムシのトランスクリプトームデータにおいて大量に発現する遺伝子から、ミトコンドリアに局在し、かつ加熱しても沈殿しない(熱可溶性)タンパク質2種を同定した。1種はLEAタンパク質と相同性を示したが、もう一種はクマムシ類に固有の遺伝子であった。これらの遺伝子をヒト培養細胞に導入し、それぞれを定常的に発現する株を作出した。これらの定常発現株について比較的温和な水欠乏ストレスである高浸透圧曝露への耐性を計測した結果、いずれの遺伝子の定常発現株も親株に比べて高浸透圧曝露後の生存率が向上していることが明らかになった。今回同定した2種の遺伝子はいずれもクマムシのミトコンドリアにおいて乾燥耐性に寄与していると考えられた。さらに、ミトコンドリアの耐性関連タンパク質を網羅的に同定するために、クマムシからミトコンドリア分画を単離し、質量分析を用いたショットガンプロテオミクス解析を実施した。単離したミトコンドリア分画は分画マーカーを用いたウェスタンブロットにおいて細胞質や小胞体の混入は認められず純度の高い分画が得られた。比較対象としてクマムシ全身の破砕液についても同様の解析を行い、両サンプルから合わせて約2000種類のタンパク質が検出された。ペプチドカウントをもとにミトコンドリア分画に濃縮されているタンパク質として約800種を同定した。このうちの約10%の遺伝子はクマムシに固有の新規遺伝子であり、耐性に関わる良い候補と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
トランスクリプトームデータを活用した解析が順調に進行し、2種のミトコンドリア局在熱可溶性タンパク質を同定した。このうちの1つはクマムシ固有の新規タンパク質であり、これまでに同定されていた細胞質局在型、細胞外分泌型と合わせてクマムシが主要な細胞内コンパートメントに合わせて固有の熱可溶性タンパク質を持っていることを明らかにした。さらに、今回同定した2種のタンパク質がヒト培養細胞の高浸透圧耐性を向上させることを示した。これはクマムシ遺伝子産物により他種細胞の耐性を向上させた初めての例であり、計画を上回る達成度である。ショットガンプロテオミクスについても高純度のミトコンドリア分画の単離に成功し、比較ショットガンプロテオーム解析によりミトコンドリア分画に濃縮された多数のタンパク質群を同定した。課題は順調に進展している。
今回、単一のクマムシ遺伝子の導入によりヒト培養細胞の耐性が向上したことから、同様の解析によって耐性を向上させる遺伝子群を同定することが可能と考えられる。そこで、ショットガンプロテオミクスで同定したタンパク質の中から有力な候補を選別し、これらの中からヒト培養細胞の耐性を向上させる遺伝子群を同定する。さらに、これまでに同定した耐性関連遺伝子を含めて複数の遺伝子を同時に導入することで、ヒト培養細胞により高い耐性能力を付与できるか検討する。また、これらの遺伝子のクマムシにおける耐性への寄与を明らかにするためにゲノム編集技術を用いた機能阻害実験を試みる。
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PLOS ONE
巻: 10(2) ページ: e0118272
10.1371/journal.pone.0118272