研究課題/領域番号 |
26660289
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荒川 孝俊 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (30523766)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タンパク質工学 / 代謝型受容体 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
本課題では、立体構造情報に基づいた適当な変異を細胞膜受容体へ加えることにより、受容体特異的な合成リガンドに対する新規化学プロセス能を付与することを目的としている。これまでに、対象受容体(ドーパミンD1、アデノシンA2a、セロトニン5HT1B等のアミン作動性クラスA型受容体)に対して大量発現用酵母宿主Pichia pastorisを用いた安定発現株を作製し、所与の受容体の発現誘導および可溶化条件の探索を行ってきた。このことを踏まえ、本年度は主に、培養スケールを拡大した際の精製条件の策定と精密化、活性測定系構築を進めた。具体的には、ドーパミンD1受容体およびセロトニン5HT1B受容体-シトクロムb562融合変異体に対して、蛍光ゲルろか(FSEC)を用いたアルキルマルトシド界面活性剤ーコレステロールを可溶化剤とする効率的な可溶化条件最適化、スケールアップ培養とタグを用いたIMAC精製の繰り返し適用により、変異体-GFP融合体として90%前後の純度を持つ試料を得た。現在、変異体の耐熱性を指標とした構造安定性の向上を図っている。 上記と並行して、植物由来生理活性物質合成系酵素の立体構造解明を行った。立体構造比較によって、本酵素は細胞質局在性の植物ホルモン受容体タンパク質を内包するタンパク質ファミリー(SRPBCC)と顕著な構造類似性を有することを見出した。SRPBCCのメンバータンパク質と本酵素は一次配列同一性が10%台と低いことから、受容体と酵素が別途に進化してきたにも関わらず、機能骨格は保存されることが示される事例であり、本成果は細胞膜受容体機能の相互変換、合理的設計へ対しても数多くの示唆を与える知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題の目的とする受容体の新規機能性を見いだすためには、上述した受容体発現系構築および標品調整に加えて、変異体の設計と性状評価ならびに活性測定系設定といった工程を経る。本年度までにおいて、エステラーゼ等の加水分解酵素活性付与を想定して、対象受容体のリガンド結合サイトの立体構造に基づく変異体設計を行った。また、これら対象受容体の酵母宿主での獲得(産物の定量と可溶化、精製)とFSEC法をはじめとする性状評価に必要な設備を導入し、調整系の最適化を推進した。さらに、リガンド結合定量分析・分子量変化の質量分析追跡といった活性評価法を設定し、有効性を検討する段階に進んだ。また、獲得したD1、5HT1B受容体変異体について合成アンタゴニストトリチウム標識体の結合性を測定し、文献値との差異から追加変異を施すといった、人為的な活性サイト変換を実践するためのサイクルが構築された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに受容体が本来保持するはずの合成リガンドへの結合性が低下した変異体が得られている。この原因として、受容体の低い熱安定性に由来することが懸念されるため、本年度は、熱分析(Differntial scanning fluorimetry: DSF)を取り入れて、結合性低下の原因について考察する。加えて、操作の対象とする鋳型タンパク質として既報のA2a受容体やアドレナリン受容体の熱安定化変異体を導入して検討を進める。これらの熱安定性受容体に対して合成リガンドの作用前後の質量分析結果を比べる。以上の操作によって、結合性低下が触媒反応に適合するか否かに対しての判断を行いながら、結合サイトへ変異を漸次加えていくことで、新規触媒サイトとしての成熟化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度使用額の主な充当先は、受容体獲得のための培地代、試薬購入費用、構造シミュレーションのための共用設備使用費用である。前年度と同様、共用施設の利用により専用計算機にかかる費用が予定と比べて抑えられたことから、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度配分費用については、主として物品費、特に活性測定のための合成リガンド、質量分析前処理試薬、熱測定のためのプレート類と各種アッセイにおける検出器具、学会発表のための旅費ならびに誌上報告のための投稿費、校閲費に充当することを予定している。
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