我々は、がん細胞に見られる染色体外因子であるDouble MInutes (DMs)の生物学を、長年続けてきた。DMはセントロメアもテロメアも持たず、増幅したがん遺伝子等を運ぶ。我々は最近、ヒト細胞と齧歯類細胞を細胞融合すると、ヒト染色体が断片化し、新たにDMが形成されることを示唆する結果を得た。本研究では、この点を明確にして発展させることできた。すなわち、形成されたDMはセントロメアを持たずに、分裂期染色体に付着することにより分配されること、その結果、3ヶ月程度の長期培養を行っても安定に維持されることが示された。されに、DMの形成は、様々なヒト細胞と齧歯類細胞の組み合わせについて生じることを示すことができた。一方、生体内のがん細胞ではDMが頻繁に見られるのに対し、それを長期培養すると染色体内に移行することが知られている。そこで本研究では、細胞融合後に低酸素(3%)で培養を行ったところ、DMが効率よく形成されることを見いだした。さらに、このようにヒト-齧歯類間の細胞融合により形成されたDMについて、マイクロアレイ解析を行った。その結果、ヒト染色体の様々な領域にもともと存在していた増殖関連遺伝子が、集合してDMを形成していることが示唆された。このような研究は、がん細胞内でDMがどうやって形成されるかを説明するのに極めて重要なモデルを与えるとともに、細胞工学上の重要な技術として利用可能である。一方、我々は哺乳動物細胞で複製開始に必要な配列をうまく組みあわせて遺伝子増幅させるIR/MAR遺伝子増幅法を見いだしていた。今回、本研究により、IR配列の逆位反復配列を用いることにより、効率よく染色体外のDMとして目的遺伝子を増幅できることを見いだした。このような方法は、新規な細胞工学技術として、動物細胞での組換え蛋白質生産に利用できる。
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