本研究は、一年生植物であるシロイヌナズナにおいて、ある転写因子を強く発現させた際に見られる多年生的形質やその関連因子に着目し解析することで、一年生植物と多年生植物の違いを生み出す未同定の要因を発見・解析するとともに、分子育種等に役立つ知見を得ることを目的として実施した。 各種条件下での栽培試験の結果、当該形質転換体の特徴的な形質は日長条件によって大きく変化することを見出した。また、当該転写因子のスプライシングパターンの変化により、過剰発現した際に花成や器官形成に与える影響が変化することを見出した。これらの結果から、この転写因子は、各種の外的環境による制御(日長など)やそれらにより変化する内的制御(スプライシング制御など)を受けながら多様な役割を発揮し、植物が適切に一年生植物として生長できるように機能することが示唆された。また、シロイヌナズナと異なる日長感受性を示す植物にて当該転写因子を過剰発現させる形質転換体を作出し、栽培試験を実施したが、それらの植物においては目立った形質は観察されなかった。 また、当該形質転換体の多年生的形質に影響を与える変異を探索した結果、破壊することで形質が抑えられる遺伝子を同定した。さらに、過剰発現することで当該形質転換体と類似した形質を獲得する転写因子も同定した。 上記に加え、当該転写因子との関連が示唆される遺伝子の中から、機能欠損株や過剰発現体において花成時期や形態形成などに影響がみられるものを複数見出した。そのうちの一つである転写因子ANAC075について解析を実施した結果、ANAC075は維管束などで発現する新規の花成関連抑制因子であり、その遺伝子破壊株では花成ホルモン遺伝子などの花成促進遺伝子の発現が上昇することで開花の促進が見られることを発見した。
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