研究課題/領域番号 |
26670006
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
濱島 義隆 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (40333900)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 酸化 / 不斉合成 / イオン対 / C-H結合 / 鉄 / マンガン / 過酸化水素 |
研究実績の概要 |
本研究では、過酸化水素を酸化剤とする不斉C-H酸化法の開発を計画した。近年、環境調和的な物質合成を実現するために、C-H酸素官能基化は注目されている。酵素が高エナンチオ選択的に酸化する一方、人工触媒によるC-H結合の不斉酸化は極めて困難である。それは、活性種のまわりに適切な不斉環境を構築するのが、触媒の設計上、難しいためであった。そこで、活性種のまわりに不斉空間を柔軟に構築するためにキラルイオン対の利用に着目した。 研究計画に従い、酸化触媒の本体とキラル共役塩基は文献既知のものを選択し、数種類を比較的短期間で合成した。また、金属中心とのイオン対形成も、銀塩と金属塩化物とのメタセシス反応により容易に行った。 合成したイオン対型錯体を用いて、過酸化水素によるC-H酸化反応を検討した。錯体の安定性および触媒活性について優れていることが報告されているFe-N5錯体を検討したが、イオン対形成により鉄錯体の触媒活性が大きく低下した。更に、メチレンの酸化においてはアルコールとケトンの生成比が低かったことより、本系ではラジカル反応が進行しやすいという知見も得られた。N5配位子として、dpaqおよびdpa-bpyを検討した。また、鉄の酸化状態に応じて1:1から1:3錯体を検討した。いずれも錯体の形成はESI質量分析により確認できたが、満足いく酸化活性は見られなかった。 そこで、条件を再度検討したところ、配位子をN4型に、金属部位をMnに、更に酸化剤をTBHPにしたところ、中程度の収率であるが、C-H酸化が進行することが明らかとなった。更に、オレフィンのエポキシ化においてMnの対イオンとしてキラル酸を添加したところ、添加した酸の影響により立体性選択性が大きく影響されることが示唆された。 現在、得られた成果をもとに反応効率の改善を図るべく、条件の検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記載したイオン対型酸化金属触媒の合成は、計画通りに進行した。また、合成した触媒の機能評価も計画通りに実施した。 合成した錯体には期待した酸化活性が見られなかったが、種々条件を検討した結果、オレフィンのエポキシ化においてイオン対型錯体が立体制御に影響を与えるという結果を得た。これはTBHPを用いており、当初予定した過酸化水素を用いる酸化ではない。しかしながら、触媒の陰イオンが反応経路に影響を与えたという点、更には同触媒にてC-H酸化も進行しえるという点が確認された。選択性向上が必要であるが、初年度の目的はかなり達成されたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の成果により、オレフィンのエポキシ化においてMn-N4錯体とキラル酸が協調的に作用し、不均質な空間な中で立体選択性をコントロールし得ることが見出された。本年度は、様々なキラル酸の添加効果を検討し、新たなイオン対型酸化触媒の創製を目指す。また、N4配位子の電子的および立体的チューニングにより酸化触媒の活性向上を図る。 一方、これまでにMn錯体では、メチレンのC-H酸化が中程度の収率で進行することを見出している。そこで、C-H酸化にもイオン対型酸化触媒を適用し、イオン対により形成される不斉空間が水酸化反応の立体選択性に及ぼす影響を調査する。キラル酸の構造を変化させることで立体選択性の向上を目指す。また、メチレンの過剰酸化によりケトンが生成するため、非対称化を伴うケト基導入を検討し、キラルケトンの新規合成の基盤を整える。
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次年度使用額が生じた理由 |
エバポレーター、ダイアフラムポンプ、スターラーの購入を予定していたが、学内の他研究室室から一部を譲渡されたため、物品費の使用金額が大きく低下した。また、錯体構造解析を外部にて行う予定であったが、頻度が小さく、そのため研究成果打ち合わせ旅費もあまり使っていない。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進展に伴い、錯体合成の試薬代および不斉収率を測定するためのキラルカラム、前処理カラムなどの消耗品の購入が必要なため、物品比は昨年と同様の金額が必要である。また、研究成果打ち合わせ、研究発表の回数も増えることが予想される。従って、次年度使用金額は適切に使用される。
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