近年、環境調和的な物質合成を実現するために、C-H官能基化が注目されている。酵素が高エナンチオ選択的に酸化する一方、人工触媒によるC-H結合の不斉酸化は極めて困難である。それは、活性種のまわりに適切な不斉環境を構築するのが、触媒の設計上、難しいためであった。そこで本研究では、酸化活性種のまわりに不斉空間を柔軟に構築するためにキラルイオン対の利用に着目した。 研究計画に従い、酸化触媒の本体とキラル共役塩基は文献既知のものを選択し、数種類を合成した。また、金属中心とのイオン対形成も、銀塩と金属塩化物とのメタセシス反応により容易に行った。平成26年度は、錯体の安定性および触媒活性について優れていることが報告されている鉄-N5錯体を検討したが、イオン対形成により鉄錯体の触媒活性が大きく低下すること、酸化反応はラジカル反応であることを明らかとした。一方、27年度はイオン対型Mn錯体も合成し様々な酸化反応を調査したが、キラルイオンの解離が遅いためか、触媒活性の著しい低下が見られた。 そこで、平成27年度は、配位子をN4型に、金属部位をマンガンにしたところ、中程度の収率であるが、C-H酸化が進行することを確認した。また、様々なキラル酸の添加を検討したところ、添加した酸の影響により反応性および立体性選択性が大きく影響されることが分かった。すなわち、C-H酸化の進行において、触媒の陰イオンが反応経路に影響を与えることが示唆された。そこで、触媒金属中心に基質を配位させることで反応効率を改善する目的でカルボキシル基を有するアルカンを基質として適応したところ、反応はベンジル位選択的に進行し、対応するラクトン体を比較的良好な収率で得た。更に、中程度ながらエナンチオ選択性も誘起されることを見出した。この結果を改善すべく、安価な原料から合成可能な新規なN4配位子をデザインし、合成法を確立した。現在、酸化反応を検討している。
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