研究実績の概要 |
含NHCピンサー型不斉配位子の金属錯体の合成を試みた。NHC配位子前駆体であるイミダゾリウム塩は一般的に、イミダゾールのアルキル化、もしくはジアミンに対して酸触媒存在下オルトギ酸アルキルを作用させることで合成することができる。しかし数多くの検討を行ったが、目的のイミダゾリウム塩を得ることはできなかった。 (S)-2-((1H-Benzo[d]imidazol-1-yl)methyl)-4-isopropyl-4,5-dihydrooxazoleに対してブロモメチルオキサゾリンを作用させた場合には、オキサゾリン環が開環したヒドロキシアミド体1が低収率で得られた。そのため目的のイミダゾリウム塩が不安定であることが推察され、イミダゾリウム塩を経由するルートでは合成困難であることが示唆された。 そこで1からのオキサゾリン環の閉環によって合成を行うこととした。ヒドロキシアミド体1とPBr3を反応させ、ジブロモ体2を合成した。嵩高い塩基を用いた2からオキサゾリンへの変換は失敗に終わったが、MS 4A存在下、2にAg2Oを作用させたところ、環化と錯形成反応が同時に進行し、NHC-Ag(I)錯体3を高収率で得ることに成功した。3は1HNMR,13C NMR,HRMSによって構造が決定され、C2対称性を有する錯体であることがわかった。またDMSO溶媒中3とPtCl2を反応させるとNHC-Pt(II)錯体を得ることができた。 4とCrCl2の反応によりNHC-Cr錯体を極めて安定な深青色の結晶として得た。そのX線構造解析は、Cr原子に対してビスオキサゾリンNHC配位子が3座で配位していることを示しており、また得られた錯体はNHC-Cr(III)錯体であった。これは金属交換によって生じた電子豊富なNHC-Cr(II)錯体がAgBrを還元したものであると推察している。
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