研究実績の概要 |
核酸塩基の持つ相補的な水素結合形成能は,低分子化合物をユニットとする分子会合体の形成に利用可能であると考えられる。私たちは今回、三方向に核酸を配置した分岐型の人工DNAを合成し,その分子会合体形成能の解析を目的に研究を行った。1,3,5-benzenetrimethanolに,4種の核酸(A, T, G, C)をそれぞれホスホロアミダイト法で結合し,保護基を順次除去して目的の4種の分岐型人工DNA三量体を得た。さらに,これらを用いた会合体形成について検討した。インターカレーターの一種である臭化エチジウムを4種の分岐型人工DNA三量体にそれぞれ添加すると,赤色の蛍光が観測された。臭化エチジウムは疎水的環境で蛍光を発することから,何らかの会合体を形成し,臭化エチジウムが水から隔てられた環境に置かれていると考えられた。そこで,その会合体の構造を明らかにすべく,MOEを用いたドッキングシミュレーションを行った。その結果,分岐型の人工DNA三量体は,臭化エチジウムを掴むように包接する事が示唆された。一方,アクリジンオレンジは一本鎖と二本鎖DNAの区別に用いられ,一本鎖の場合は赤色の,二本鎖の場合は緑色の会合体を生成することが知られている。そこで臭化エチジウムに換えて,アクリジンオレンジと分岐型人工DNA三量体との混合を試みた。その結果,GとCを塩基として持つ分岐型人工DNA三量体を1対1で混合し,アクリジンオレンジを加えた場合は赤色に,一方,AとTとアクリジンオレンジを混合した場合は黄色を呈することが分かった。これらの結果から,核酸塩基の違いにより,会合体の構造が異なることが示唆される。
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