本研究の主眼は,動的反応制御素子のデザイン・開発を基軸として,多成分分子アンサンブル中での精密化学反応制御を可能にする方法論を確立し,最終的には多成分複雑開放系である生命科学現象の科学反応的理解を目指すものである。従来型の化学反応研究が扱っていない研究対処であるため,メカニズムの異なる化学反応を時空間分解しながら縦横に随意制御する機構として,制御シグナルを介した配位列特異的ハイブリダイゼーションにより機能制御された触媒素子を提案し,高精度に適時発動させることで精密な反応統制を可能にする系を構築する。前年度に引き続き,テトラフルオロ置換によりcis型配座を安定化したアゾベンゼンユニットにより連結されたADD型/DAA型水素結合ユニットを適切なリンカーで連結した分子を構築し,E/Z光異性化による適時構造遷移能を精査した。E型配座では分子間水素結合を形成せず濃度依存的な弱い分子間相互作用に止まっているが,Z型配座では分子内で強固な相互作用によるfolding状態を取ることがNMRにより確認された。現在リンカーへの不斉点の導入による立体選択的folding,触媒機能ユニット導入による反応の随時制御を可能にする機能性分子創製に向けてさらに研究を進めている。
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