研究課題/領域番号 |
26670018
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
奥 直人 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10167322)
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研究分担者 |
浅井 知浩 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (00381731)
清水 広介 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (30423841)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロRNA / miR-499 / 腫瘍血管新生 / 血管正常化 / 併用療法 / ドキソルビシン / 新生血管標的化 / 核酸医薬品 |
研究実績の概要 |
腫瘍血管新生の抑制は、腫瘍増殖を抑えるとともに、血管を正常化すると考えられている。血管正常化は腫瘍への薬剤送達に有利に働くため、抗がん剤と血管新生抑制剤の併用療法が、がん治療に有効であることが知られている。本研究は、生体内で一連の血管新生に関わるタンパク質合成を抑制し血管正常化を促進することが期待されるmicroRNA(miR499)を用い、抗がん剤との併用療法による効率的ながん治療法を確立する。 腫瘍新生血管標的化miR499全身投与型製剤としては、我々が開発したカチオン脂質 (DCP-TEPA)を含むリポソームを用いた。リポソームは血中滞留性付与のためにPEG脂質で修飾し、PEG先端には標的化を目的とする新生血管特異的ペプチド(APRPG)を結合させた。これまでにインビトロの系でmiR499リポソームがヒト臍帯内皮細胞による管腔形成を阻害し、血管新生関連タンパク質をノックダウンすることを確認している。まずこのmiRNA製剤の体内動態・腫瘍内動態を検討した。腫瘍切片の共焦点レーザー顕微鏡観察により、本製剤の腫瘍特異的な集積を確認した。次にマウス大腸がん細胞C26-NL17を皮下移植したマウスを用い、血流正常化について血流存在下で血管に結合するトマトレクチンにより染色し、CD31染色によるすべての血管の画像との差を取ることで評価した。その結果miR499は、投与96時間後に新生血管の血流を正常化した。次に担がんマウスを用いて、miRNA製剤処理96時間後にドキソルビシン(DOX)を投与し、腫瘍内のDOX量を定量したところ、血管正常化により、腫瘍内のDOX量が有意に増加した。miR499製剤とDOXとの併用効果についても検討を進め、予試験的に良い結果が得られている。今後、腫瘍新生血管正常化を目的としたmiRNA製剤の有効性を明らかとし、抗がん剤やDDS製剤との併用による新規がん治療戦略を確立する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
miR-499は、がん悪性化に関与する虚血および低酸素環境下で発現するmicroRNAであり、Wnt経路やカルシニューリン経路を総合的に制御することにより血管新生を抑制する。miR-499の送達ベクターとしてはtetraethylenepentamine-based polycation liposomes(TEPA-PCL)を用い、腫瘍血管内皮細胞および種々のがん細胞に高発現している血管内皮増殖因子受容体-1(VEGFR1)に親和性を有するAPRPGペプチドをTEPA-PCLの表面に修飾した(APRPG-miR-499)。この複合体を、C26 NL-17細胞を皮下移植したマウスに静脈内投与し、miR-499の効果を評価した。miR-499による血管正常化については、血流改善効果により検討した。ビオチン標識トマトレクチンを用いて血流を有する血管を染色し、腫瘍内血管の血流の有無を評価した。その結果、対照群では血流を有する血管が少ないのに対し、APRPG-miR-499投与群では顕著な血流改善効果が認められた。さらに本研究の目的である抗がん剤の腫瘍蓄積改善効果に関しては、DOXを用いて検討した。APRPG-miR-499の投与4日後にDOXを静脈内投与し、その3時間後に腫瘍内DOXを定量した結果、対照群と比較してAPRPG-miR-499の前投与によりDOXが腫瘍に有意に多く集積していた。これより、miR-499による血管正常化作用は腫瘍への薬剤送達を向上することが示された。DOXとの併用による抗がん作用についても研究が進んでおり、ほぼ当初の予定通り順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
Colon26 NL-17マウス結腸がん細胞を移植した担がんマウスに、我々が開発し、本研究で用いている腫瘍新生血管標的化miR499全身投与型製剤miR-499を静脈内投与後、抗腫瘍効果を評価する。評価にはmiR499単独投与と抗がん剤との併用投与を行い、血管正常化による抗がん効果の増強作用を測定する。すでにmiR499処理により、DOXの腫瘍内蓄積が上昇することを見出しているため、併用効果は期待できるが、miRNA投与後何日で抗がん剤を投与すると最も有効であるか、miRNA製剤と抗がん剤を交互に投与した場合と、miRNA製剤を先に複数回投与してから抗がん剤を投与した場合の抗腫瘍効果など、スケジューリングを綿密に行い、効果的に検討を進める予定である。これらの検討によりmicroRNA製剤による血管正常化効果が、抗がん剤治療の効率をあげ、がん治療の新たな戦略になることを提唱する予定である。
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