研究実績の概要 |
細胞膜のリン脂質はホスホリパーゼ(PLA1あるいはPLA2)による脂肪酸の切断とそれに引き続くリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ(LPLAT)による脂肪酸導入反応を恒常的に受けている(脂肪酸リモデリング)。しかし、その脂肪酸リモデリングの分子機構や意義は不明な点が多く残されている。今回我々はリン脂質のsn-1位のリモデリングに着目し、その分子機構の解明を試みた。 2種類の細胞内型PLA1(iPLA1α、γ)に着目し、それぞれの酵素をHeLa細胞に過剰発現させ、リゾリン脂質の測定を行った。しかし、2-アシルリゾリン脂質の産生は観察されなかった。産生されたリゾリン脂質が再アシル化反応によって速やかに消去されている可能性を想定し、iPLA1α過剰発現にLPLAT阻害剤(CI-976)を投与した。その結果、2-アシルリゾリン脂質(LPC, LPE, LPI, LPS, LPG)の顕著な蓄積が認められた。2-アシルリゾリン脂質の蓄積は通常のHeLa細胞をCI-976処理しただけで認められ、siRNAでiPLA1αの発現を抑制すると細胞内の2-アシルリゾリン脂質量が減少した。iPLA1αとほぼ同様の2-アシルリゾリン脂質変化がiPLA1γでも観察された。PIのsn-1位に脂肪酸を導入することが知られているlycatノックダウン時に2-アシルリゾリン脂質の蓄積は認められなかった。本研究により、iPLA1α, γがsn-1位の脂肪酸を分解し、産生された2-アシルリゾリン脂質は速やかにCI-976 sensitiveなLPLATによって再アシル化が行われているというsn-1位のリモデリング機構の存在が示唆された。ごく最近、遺伝性痙性対麻痺と呼ばれるヒト遺伝の病原因遺伝子としてiPLA1α, γが報告された。sn-1位の脂肪酸リモデリングの破綻が遺伝病の発症に関わる可能性が考えられる。
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