研究課題/領域番号 |
26670024
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
服部 満 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (20589858)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | GPCR / ルシフェラーゼ / 細胞 |
研究実績の概要 |
本申請研究では,「細胞の主要な膜レセプターである GPCRの活性が, 隣接する他の細胞の GPCR を活性化する」 というレセプターの概念を超えた現象を裏付け, 証明するため, ルシフェラーゼを基盤とした発光プローブを開発し, GPCR 活性を細胞レベルで発光検出する. 同プローブを細胞に導入して, 複数の細胞でのGPCR活性を光シグナルとして経時的にイメージングすることで, 細胞間での活性の伝達を証明する. 最終的に, GPCR活性の伝達を担っていると予想されるタンパク質因子の同定を含め, 伝達様式の解明および薬剤ターゲットとしての応用展開を目指す. 本年度は, タンパク質再構成法を基盤とした発光プローブの開発及び, 顕微鏡観察系の構築を行った. 申請者がこれまで用いてきたルシフェラーゼ再構成法では, 絶対的な発光量が微弱であったため, 発光強度が既存のルシフェラ ーゼの約 100 倍を誇る NanoLucを導入することで迅速な撮影が可能な発光プローブを開発した. 実際に同プローブを細胞に導入して, GPCR 活性に伴う発光の上昇および, 1細胞レベルでの発光顕微鏡観察を実行した. 顕微鏡の構築では, 通常の蛍光顕微鏡をベースにして生物発光を高感度に迅速に撮影できるシステムを構築した. EM-CCDを検出機器として設置し, 装置全体を暗箱で囲い, 外部の光を全て遮断した. また, 複数の発光シグナルを光波長で分光し撮影できるよう分光フィルターの設置も行った. 全ての装置の動作を, 接続したPCにて専用制御ソフトを用いて操作できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 当初の目的のひとつである, NanoLucルシフェラーゼをベースとしたタンパク質再構成法による発光プローブの作製に着手した. NanoLucアミノ酸配列を任意の位置で分割し, その再構成効率をFKBP-FRB系につなげることで確認した. Rapamycin添加により相互作用が起こるFKBP-FRBを利用してNanoLucの再構成を誘導すると, 一部の断片ペアにおいて明確な発光値の上昇が確認された. 複数の切断位置を検討した結果, 既存の発光再構成系と比較して, 100倍以上の発光強度を示す最適な断片ペアを選抜した. 同ペアを以降のプローブ作製に用いた. NanoLuc断片をそれぞれGPCRおよびarrestinに融合させることで, GPCR活性を測る発光プローブを作製した. 同プローブをHEK293細胞に導入して, GPCR特異的なリガンドを添加することでその発光変化を確認した. 96穴プレートリーダーを用いた測定では, 細胞溶解液にてリガンド添加により著しい発光の上昇が検出された. また, 生きた細胞中においても, リガンド添加により発光輝点が観察され, 細胞膜上およびER等に輝点が移動する様子が観察された. それぞれの撮影時間は1枚あたり1秒以下であり, 細胞間でのGPCR活性の相関を観察するために十分な輝度であった. 顕微鏡の開発では, 既存の倒立蛍光顕微鏡をベースにした発光観察用のシステムを開発した. これまで正立型の発光用顕微鏡での実例はあったが, 比較してより細胞の形状が明瞭に観察され, また長時間の撮影に適した観察環境を設定出来るようになった. 蛍光観察との同時使用など, 複数の目的に適用できるシステムを構築した.
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今後の研究の推進方策 |
発光プローブの開発として, GPCR-arresitinの相互作用だけでなく, GPCR間のダイマー化を検出出来るように, NanoLuc断片を繋げた新規のプローブも準備する. また, 複数のGPCR種でそれぞれプローブを作製する. 開発した様々なプローブを細胞に導入して, リガンド添加に対する発光値の変動を確認する. また, 細胞観察時に用いる, 核, ミトコンドリア等をラベルする蛍光プローブも準備する. 顕微鏡観察にて, 細胞中の発光輝点を観察, プロットし, 隣り合う細胞間で発光プロットがどの程度一致しているかその頻度を計算する. 相関が期待されるならば, 細胞密度の異なるサンプル間でリガンド刺激後の発光値の変化速度が異なることを確認する. 細胞間のGPCR活性の伝播を担う因子として, 細胞接着因子に注目する. カドヘリンやインテグリンなどの因子は蛍光タンパク質で標識し, GPCRプローブの発光輝点の発生位置とどの程度一致するか観察する. また, 接着因子にNanoLucの断片をつなげることで, GPCRと接着因子との相互作用で発光が生じるシステムも開発する. リガンド刺激の濃度, 細胞密度, 時間変化等, 発光強度がどのように変化するか計測, 観察する. 最終的には, 接着因子に対する阻害剤の添加, ノックアウト, または細胞増殖に関与する細胞内タンパク質のモニタリングをそれぞれ行うことで, GPCR活性の伝播の仕組みを解明する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していた発光プローブの開発のうち, GPCRのダイマー化を検出するプローブについて, 構造ないし発光量に改善の余地が生じており, 次年度においても引きつづき開発を継続する必要がある. DNAテンプレートの改良において, 各種修飾酵素及び実験プラスチック類が必要となり, 次年度の使用額が生じた. また, 同作成予定プローブの検出時には, 顕微鏡に専用の光学フィルターを導入する必要があり, そちらも次年度の使用額として求める.
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次年度使用額の使用計画 |
DNA合成試薬として約10万円, DNA修飾酵素として約5万円, 実験プラスチック類として約5万円を見積もる. 光学フィルターとして約20万円を見積もる.
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