長期にわたる薬の注射投与は患者の負担が大きい。さらに、成長ホルモンなどのタンパク質製剤の大量調製は工業的に困難であるため、医療費の増大にもつながっている。動物の体には、様々な常在細菌が存在し、動物と様々な物質のやりとりをしている。培養と遺伝子改変に適した常在細菌を分離同定し、成長ホルモンなどの遺伝子を組み込み、動物に再定着させてタンパク質を持続的に供給させることは、動物に特定のタンパク質を供給する新しい医療法となると考えられる。本研究では、昆虫の腸管に常在する細菌種の同定と機能評価を行った。また、昆虫の体サイズを増加させる生理活性物質がロイヤルゼリー中に含まれるかについて検討を行った。 クワガタムシの菌嚢とフタホシコオロギの腸管から、細菌を分離同定した。クワガタムシ菌嚢から分離された細菌においては、抗菌物質を生産していることが判明した。また、コオロギ腸管から分離されたKlebsiella oxytocaについて、プラスミドで形質転換後、コオロギに再定着することが確認された。さらに、細菌のペプチドグリカンが昆虫の腸管から自然免疫経路を活性化し、感染防御に働いていることを見出した。 ロイヤルゼリーの投与により、カイコガとフタホシコオロギの体サイズが増加するかについて検討を行った。その結果、両種において、体サイズの増加が認められた。フタホシコオロギでは体サイズの増加が幼虫期から観察されたが、カイコガでは幼虫期では体サイズの増加がおこらず、蛹期から体サイズの増加が観察された。 本研究結果は、Klebsiella oxytocaが遺伝子組み換え後の腸管への再定着が可能な常在細菌であること、ならびに、昆虫の体サイズを増加させる物質がロイヤルゼリー中に存在していることを示唆している。
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