研究課題
活動・睡眠という生活リズムは、社会生活や個人の健康の基盤である。ところが、経済のグローバル化に伴い、交替制勤務や夜間労働に従事するシフトワーカーが、急増している。疫学研究により、シフトワークが、肥満や糖尿病といった生活習慣病の高リスクファクターであることが判明した。しかし、なぜ、慢性時差が病態の原因となるのか、その分子メカニズムは不明である。我々は、時差の分子メカニズムを解明するために、概日リズムの中枢である脳の視交叉上核(SCN)を対象としたスクリーニングを行い、SCNの主要な神経ペプチド、バソプレッシンの受容体であるV1aおよびV1bを共に欠損したダブルノックアウトマウス(V1aV1bDKOマウス)では、明暗環境の位相を変化させた時に生じる時差が完全に消失することを発見した。そこで、この時差消失V1aV1bDKOマウスを用いて、慢性時差がもたらす病態のメカニズムを解明するのみならず、新規の時差改善薬をも開発することで、シフトワーカーの病態を予防・治療することを試みた。その結果、野生型マウスを慢性時差環境下におくと、肝細胞が異常を示す傾向にあったのに対し、V1aV1bDKOマウスでは、そのような変化は観察されなかった。V1aV1bDKOマウスや受容体アンタゴニストを用いた検討から、SCNにおけるバゾプレッシン結合の減弱が時差後の再同調を促進すると考えられるため、バソプレッシンシグナルの調整剤が、シフトワーカーの病態に対する創薬に寄与することが期待できる。また、この調整剤は、自然の昼夜サイクルとはズレのあるサイクルで生活する睡眠相前進あるいは後退症候群の患者も治療できるであろう。本研究の成果は、シフトワーカーや睡眠リズム障害者の概日リズム異常の治療に加え、ヒューマンエラーによる、惨事を招きかねない深夜の事故を防止できる点で、非常に意義が深い。
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Sci Rep
巻: 4 ページ: 4972
10.1038/srep04972
http://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/system-biology/
http://first.lifesciencedb.jp/archives/7777