本研究では、脳内に分布するマスト細胞の特徴を明らかにし、これを反映する培養モデルを構築することを通じて、マスト細胞が関与する脳内の炎症性疾患を制御するアプローチを見いだすことを目的とした。成果として以下の新たな知見を得た。 1.マウス脳内マスト細胞の発現遺伝子の解析:脳内マスト細胞の単一細胞レベルでの遺伝子発現解析を共同研究により実施した。脳内マスト細胞は組織結合型マスト細胞と類似していたが、プロスタグランジン合成D2酵素、グルタミン酸脱炭酸酵素、Ncam1、Vcam1といった遺伝子の強い発現は脳内マスト細胞に特異的であった。 2.マスト細胞における神経栄養因子受容体の発現:マウス骨髄由来培養マスト細胞では、p75、sortilinが発現しており、線維芽細胞との共培養により組織結合型へと分化させるとさらにTrkCが誘導された。一方で、IL-9、SCF存在下、粘膜型に誘導するとp75の発現が消失した。 3.マスト細胞の活性化によるTrkAの誘導:マウス骨髄由来培養マスト細胞を抗原、あるいはリポ多糖で刺激すると6時間をピークにTrkAが転写レベルで誘導された。両者の共刺激により強い転写誘導が確認され、イムノブロットによりタンパク質の発現を確認した。NGF刺激によりERKのリン酸化が誘導され、IL-6あるいはIL-13が転写レベルで誘導された。 4.線維化応答の解析:神経線維腫における線維化ではマスト細胞が必須であるが、マウス骨髄由来培養マスト細胞と線維芽細胞株との共培養により-平滑筋アクチン、結合組織増殖因子といった線維化マーカーの誘導が認められた。 5.クロモグリク酸ナトリウムの標的分子の同定:マスト細胞の抗原刺激による脱顆粒応答を抑制する作用をもつクロモグリク酸ナトリウムについて、その標的となるGタンパク質共役型受容体の候補を同定した。
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