記憶や認識などを処理する脳は神経細胞を最小の機能単位として、神経細胞シナプスを介してつながる綿密なネットワークを形成して中枢神経系を構築している。シナプス構造の形成には軸索の終末部のシナプス前末端と樹状突起側のシナプス後末端の両者に存在する分子が相互作用する必要がある。2000年にNeuroliginがシナプスを誘導する「シナプスオーガナイザー」として同定され、注目されるようになった。興味深いことにNeuroligin 1はグルタミン酸作動性ポストシナプスを形成する樹状突起上のスパインに局在するという特異性を有し、Neuroligin 2や4はGABA作動性シナプスの形成に必要である。申請者は、モノアミン神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンが関連するシナプス形成・維持機構を解明する目的で、シナプスオーガナイザー分子の一つとして知られるEphA4および他のEphA受容体ファミリー分子のシナプス形成能と、さらにその代謝機構について検討を行った。その結果、初代培養神経細胞においてEpha4はpreおよびpostシナプスに局在していること、細胞表面に存在するEphA4は膜結合型メタロプロテアーゼADAM10により切断を受けて代謝されることで、発現量が規定されていることを見出した。このEphA4に対するADAM10の活性はドーパミンD2受容体アゴニストにより亢進する一方で、D1受容体アゴニストでは変化が見られなかった。またD2アゴニストによる効果はD2アンタゴニストによりキャンセルされた。興味深いことに線条体ではD2Rアゴニストでスパインが増加すること、またEphA4切断によって産生された断片にスパイン形成能が報告されていることから、ドーパミン刺激を受けた部位でEphA4が代謝されることでモノアミンシナプスが新たに形成されることが示唆された。
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