研究課題/領域番号 |
26670043
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浜本 洋 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90361609)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 抗菌薬 / 感染症 / カイコ / 作用機序解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、カイコ黄色ブドウ球菌感染モデルでの治療効果を指標に探索された3つの化合物について、作用機序解析を実施した。化合物の抗菌スペクトラムを解析したところ、いずれも黄色ブドウ球菌、及び多剤耐性黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性を示したが、化合物Bは抗菌活性がやや低く、またカイコモデルにおける治療効果も残りの2つと比べ弱いものであったことから、今後の解析が困難であると判断し研究の対象から除外した。化合物A, Cについては、抗菌スペクトラムがやや狭いものの、多剤耐性黄色ブドウ球菌に対する効果がメチシリン感受性株と変わらなかった。2つの化合物について、黄色ブドウ球菌に対する作用様式を検討したところ、化合物Aは弱い殺菌性を示し、化合物Bは静菌的であった。両者の黄色ブドウ球菌のDNA、RNA、タンパク質、及びペプチドグリカンの高分子合成に対する阻害活性を検討したところ、化合物AはRNA合成が阻害され、タンパク質合成が部分的に阻害された。また化合物CはRNA合成が主に阻害され、及びタンパク質合成が部分的に阻害された。従って、両者ともRNA合成経路に特異的に作用する可能性が考えられた。そこで、その作用機序を明らかにするため、耐性変異株を取得し、その遺伝子変異部位を次世代シークセンサーによって解析した。化合物Aについては、これまでのところ耐性株間で共通した遺伝子変異が認められず複数の要因によって耐性化していると考えられた。化合物Cについては、複数の独立に取得された株間で共通して遺伝子変異が認められた。現在、この遺伝子産物に対する活性が阻害されるか否かについて生化学的な解析に着手している。さらに、化合物Cについてマウス黄色ブドウ球菌感染モデルにおける治療効果を検討した。初期検討の結果、化合物を投与できる最大の用量で延命効果が見いだされた。また、マウスに対する顕著な毒性は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に従って、順調に解析が進行している。当初、3つの化合物について解析予定であったが、1つの化合物については科学的な合理性から、解析を行うことが適当ではないと判断し、もう1つの化合物については、作用標的解析が困難である可能性が考えられ、本研究の中心的課題であるリード化合物の創出には時間が必要とされると予想されるため、本研究期間中に予想された成果が得られないと判断し別のプロジェクトとして取り扱うこととした。残り1つの化合物については、当初計画通りの成果が得られており、今後の解析により本研究の目的である抗菌化合物のリード化合物として有用であることを示すことが可能であると考えられる。従って、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
同定された標的については、黄色ブドウ球菌における取り扱いが難しいことがこれまでの論文報告から判明しており、当初計画にあったX線構造解析は極めて挑戦的な課題となっている。本研究では、共同研究により有機合成展開を実施して頂く際に、化合物をビオチン化した誘導体を合成して頂き、相互作用が認められるか否かについて検討する。また、化合物の注射用剤に対する溶解性が低いことが判明したため、薬物動態解析について低濃度で解析する手法の確立が必要であることから、その検討を実施する。その他の事項については研究計画通りに推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シークセンサーを用いた解析について共同研究により費用を節約することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
節約できた研究費については、今年度実施する類似する化合物の種類を増やし解析の充実を図る。また、ビオチン化化合物の解析に必要なマグネットビーズの購入費に充てる。マウスモデルにおける治療効果の評価と、薬物動態の解析に必要なマウスの数を増やし、十分な統計解析が可能な実験系で実施する。
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