冬虫夏草は昆虫などから生じるキノコの総称であり、約400種が確認されている。その1種サナギタケCordyceps militarisは栄養補助食品や生薬として広く利用されており、東アジアにおいては癌患者の治療薬として古くから用いられてきた。特にC. militarisによって生産されるcordycepinは強力な抗腫瘍活性を示すために薬理活性における研究が盛んに進められている。一方で、その生合成については不明な点多く遺伝子・酵素レベルでは明らかにされてはいなかった。本研究ではcordycepinの生物合成法の確立を目的として研究を遂行している。 C. militarisから単離されたcordycepin類縁体の構造から、cordycepin生合成酵素はpuromycin生合成酵素との類似性が高いと予測した。そこで、Streptomyces alboniger由来puromycin生合成遺伝子クラスター中の複数の酵素遺伝子に類似する配列をC. militarisゲノム配列情報から検索した。その結果、C. militarisはpuromycin生合成クラスターと相同性の高い遺伝子群cgpクラスターを保有していることを見出した。そのうちcgp1620は1つのORFにoxido-reductaseとamino-transferaseの2つの異なる機能性を持ったドメインを有するとアノテーションされていたため、5’-および3’-RACE法によってORFに終止コドンが含まれていないか正しい遺伝子配列を決定した。cgp1620~1625の各遺伝子はATPの五炭糖3位の水酸基を酸化・アミノ基転移を行う酵素遺伝子と高い相同性を示した。現在、大腸菌やAspergillus属糸状菌を用いた異種発現系、C. militaris形質転換系の樹立により、cordycepinの生合成経路の解析中である。
|