研究課題
DNAやヒストンに対する化学修飾は遺伝子転写を厳密に制御しており、これらの修飾反応を担う酵素の生理機能と医薬への応用が注目されている。本研究では、ヒストンメチル化酵素選択的阻害剤の開発を目的に、以下の研究を行った。1)リシン残基メチル化の簡便なスクリーニング系の構築:前年度までに、1-Fluoro-2,5-dinitrobenzeneがリシンよりもN-メチルリシンと13倍速く芳香族求核置換反応を起こすこと、また、それぞれの生成物のUV吸収スペクトルが著しく異なることを見いだし、リシンもしくはN-メチルリシン含有ペプチドの定量ができることを示した。一方で、スクリーニングに応用するには操作の煩雑さ、感度に問題があった。そこで、蛍光法により解析する手法を検討した。1-Fluoro-2,5-dinitrobenzeneを蛍光団に組み込んだ蛍光特性変化型プローブを種々設計し、その蛍光特性を解析したが、望みの性質を発揮する化合物は得られなかった。そこで、蛍光特性の変化を起こさない蛍光ラベル型プローブを作成し、その有用性を検証した。その結果、ペプチドをプレートに固定化し、洗浄操作を行うことにより、酵素反応条件下で基質のメチル化を検出しうる系を見いだした。2)ヒストンメチル化酵素活性検出法の開発:本項目については、前年度に引き続き、リシンアミノ基と反応し、イミン結合を形成するアルデヒド基を導入した補酵素誘導体の合成を進めた。3)ヒストンメチル化酵素SET7/9の阻害剤の開発:前年度に引き続き、ヒストンメチル化酵素SET7/9阻害活性を有することをみいだしたシプロヘプタジンをもとに、その構造展開を図った。今年度はスベレン環への置換基導入の構造活性相関を検討した。その結果、置換基導入の種類、位置によって活性が変化し、特にカルボン酸、カルボン酸アミドなどの導入が有効であることをみいだした。
2: おおむね順調に進展している
ヒストンメチル化酵素阻害剤の開発は、ヒストンアセチル化酵素と比べても研究が立ち後れている.その要因の1つは、簡便なスクリーニング法の欠如があげられる。そこで、新たなスクリーニング法の構築が本研究の課題の1つである。その観点からは、リシンとN-メチル化リシンを区別する有用な反応の発見は重要である。前年度に行ったUVスペクトルによる解析法には感度等の問題点があることから、今年度は蛍光による解析法を検討した。その結果、酵素反応条件下でも基質のメチル化を検出しうる系を見いだしたことは応用に向けて前進したと言える。一方で、操作の煩雑さ等の克服すべき問題点が残っており、来年度以降の課題であるといえる。また、新しいヒストンメチル化酵素活性検出法については、目的化合物群の合成法を確立した段階であり、順次、誘導体合成、機能解析を進めている。阻害剤開発については、Set7/9の阻害活性を見いだしているシプロヘプタジンの構造展開を図った。これまで、骨格変換、ピペリジン環への化学修飾ではリード化合物を上回る化合物は得られてこなかったが、今回、スベレン環への化学修飾が有効であることを見いだしており、より高活性な選択的阻害剤開発への知見が得られた。
ヒストンメチル化酵素阻害剤探索のためのスクリーニング方の確立については、芳香族求核置換反応を基盤とした蛍光法を詳細に検討し、スクリーニング開発を目指す。新しいヒストンメチル化酵素活性検出法の開発については、分子設計、合成した補酵素誘導体の機能を解析し、必要に応じて構造最適化を図りつつ、検出法への応用を図る。ヒストンメチル化酵素Set7/9阻害剤開発については、シプロヘプタジンのスベレン環への化学修飾を鍵として構造最適化を図る。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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