研究実績の概要 |
天然の転写因子を模倣してデザインされた小分子化合物は、疾患に関連する転写装置のcodingおよびnon-coding遺伝子を正確に調節しうる。昨年度我々はマウスやヒトの体細胞で疾患治療において重要な遺伝子を活性化させる遺伝子スイッチの開発を目指し、SAHA-PIPというDNA結合性のエピゲノム調節小分子化合物に関する研究を進め、以下のような成果を得た。マウス繊維芽細胞におけるSAHA-PIPの活性が化学修飾により向上することを示した(ChemMed.Chem, 2014)。また、ヒト繊維芽細胞における評価により、多能性に関連するmiR-302ファミリー(ACS Chem. Biol., 2014)、および、網膜の疾患に関連するCERKL、PAX6、STRA6などの遺伝子(ChemBioChem, 2015)の発現を調節するSAHA-PIPをそれぞれ同定することに成功した。また、記憶のリカバリにおけるエピジェネティックの変化を提唱した(Biomater. Sci., 2014)。次世代シーケンサによる解析によって、我々の遺伝子スイッチの標的配列への効果的な結合を明らかにした(ChemBioChem, 2014; ChemBioChem, 2015)。遺伝子OFFスイッチとして、骨髄性白血病に関連するEVI1がん遺伝子を抑制する小分子も報告した(Chem. Biol., 2014)。また、我々のDNA結合分子をエピジェネティック調節因子と統合することで、腱骨連結部の治療に関わるSOX9遺伝子を活性化させることに成功した(J. Am. Chem. Soc. 2015)。現在は、血液単球で抗HIV遺伝子を活性化する化合物や、多能性幹細胞で心臓関連遺伝子を活性化させる化合物を見出している。挑戦的萌芽により助成を受けているこれらのプロジェクトもインパクトの高い成果になると思われる。
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