研究課題
脳内でアミロイドβ(Aβ)が凝集しアルツハイマー病を発症させるというアミロイド仮説にもとづき、アルツハイマー病の治癒をめざした化合物の設計と合成を行うことが本研究の目的である。シナプスの末端から放出される亜鉛によりAβの凝集が促進されること、またscyllo-イノシトールはAβのβ-シート形成領域に結合してAβの凝集を阻害することが知られている。本研究では亜鉛キレーターとscyllo-イノシトールを連結した化合物を合成し、Aβの凝集阻害を検討する。本化合物はAβの凝集を解離する機能をもつことが期待される。平成26年度にはscyllo-イノシトール部分の合成と亜鉛キレーター部分の合成を検討した。イノシトールには9つの立体異性体が存在するが、scyllo-イノシトールは最も入手容易なmyo-イノシトールの2位の立体化学を反転させたものである。本研究ではmyo-イノイトールの1、3、5位のヒドロキシル基をオルトエステルにて、4、6位のヒドロキシル基をトシル基にて保護し、遊離の2位ヒドロキシル基の立体化学を反転させることにより、scyllo-イノシトールに変換した。亜鉛キレーターとしては、研究代表者らがこれまでに開発した4-ジメチルアミノピリジンの2位と6位に2分子のヒスチジンを二級アミノ結合で連結した化合物を採用した。ジメチルアミノピリジンの2位と6位を順次ホルミル化し、そこにヒスチジンのαアミノ基を順次還元的アミノ化で連結する合成ルートをとった。現在1つめのヒスチジンの導入を完了した。
2: おおむね順調に進展している
本化合物の合成は、scyllo-イノシトール部分と亜鉛キレーター部分をそれぞれ合成し、適当なリンカーを介して両者を連結させることによって行う計画である。平成26年度にはscyllo-イノシトール部分を1つのヒドロキシル基のみを遊離にした形で合成することができた。この遊離ヒドロキシル基はリンカーを連結するのに適している。一方、亜鉛キレーターはヒスチジンとジメチルアミノピリジンを連結し、第二のホルミル基が遊離の形で合成しており、この遊離ホルミル基に第二のヒスチジンを介してリンカー-scyllo-イノシトール部分を連結するのに適している。よって、現在までの達成度は、おおむね順調ということができる。
今後の検討事項は、scyllo-イノシトール部分へのリンカーCl(CH2)nNH2の導入と、リンカー末端のアミノ基とヒスチジンのカルボキシル基との連結による、全体構造の構築である。性質を異にするシクリトール構造とアミノ酸構造の連結であり、慎重な条件検討が必要と考えている。合成した化合物のアミロイド凝集阻害活性の評価は、凝集アミロイドとの結合で蛍光が増大する色素thioflavin Tを用いて検討する。アミロイド凝集阻害活性が増大するように、リンカー長の最適化を行う。
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http://www.medphas.kumamoto-u.ac.jp/research/bunya/60.html