ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)における腫瘍特異的10B原子の送達のための新規ホウ素キャリアとしてフリップ運動で膜透過する人工リポペプチドpepducinの細胞内移行メカニズムをモデルとする新規送達システムを導入した分子を設計し、合成を行った。 前回までに細胞核移行性及びイメージング機能を付与するための蛍光色素Hoechst 33342を導入したホウ素キャリアを設計・合成を達成した。昨年度、細胞内取り込みを評価すべく、生細胞イメージングによって細胞内局在を調べた結果、核に局在し、10B原子の核への送達に成功した。しかしこの分子は物性が悪く(水への溶解度が低い)、in vivoへの展開が困難となることが予想されたため、蛍光色素を導入したホウ素キャリアの開発については断念した。 蛍光色素を有さないホウ素キャリアの設計・合成については前回までに報告した。今回、神経膠芽腫T98G細胞におけるこのホウ素キャリアの取り込みをICP-AES分析で細胞内ホウ素濃度を測定することによって評価を行ったところ、有意な取り込みがみられた。 さらに、リポペプチド部位の最適化を行うべく、脂質構造並びに、ペプチド配列の展開を行い、種々の誘導体の合成、細胞内移行の評価を行った結果、現在脂質部位にパルミトイル基を持ち、ペプチド配列はpepducinオリジナル配列を持つものが、最も高い細胞内移行を示している。血清を含む培地中でのこのボロンキャリアの安定性をHPLCにて評価したところ、24時間経過しても約70%と安定に存在することが明らかとなった。 以上のことからpepducinの細胞内移行メカニズムをモデルとする新規送達システムがin vitroで機能することが明らかとなった。今後の課題としては、in vivoへの展開を目指し、腫瘍特異的標的機能の付与を検討する予定である。
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