昨年度までに得られた化合物であるPin1に結合してわずかに蛍光強度変化を起こす化合物2について、典型的阻害剤であるVER1との競合について再度検討した。化合物2は、Pin1に結合しわずかな蛍光増大を示した後、VER1の添加によっても蛍光減弱が観察されなかった。化合物2が遊離の状態で水溶液中に存在する場合蛍光は減弱することが判明したので、蛍光源弱が観察されなかったのは、化合物2がPin1酵素の基質結合部位以外の疎水性環境を認識して結合しているためであると考えられた。化合物2の基本構造は典型的阻害剤であるVER1と類似しているが、蛍光団結合部に親水性の高いスルホンアミド構造を有するため、VER1の結合様式と異なる様式で結合した可能性が考えられた。このため、蛍光団を有するVER1誘導体の更なる最適化および蛍光団含有VER1にさらに消光団を結合してFRETを誘導する分子設計は、効果的な蛍光増大の見込が少ないと考えられた。これらの検討から、VER1を基本構造として、基質結合部のポケット深部に結合する構造(VER1ではナフタレン部)を蛍光性官能基へと変換する分子設計、およびポケット深部に結合することで蛍光団を形成する基質様反応プローブの設計が必要であることが判明した。一方、合成した化合物2は基質結合部位にも結合していることが示されているため新たな阻害剤候補として利用できることが分かった。
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