研究実績の概要 |
近年の疫学研究により健常人においても体内に微量のダイオキシン類が存在すること、そしてそのレベルと糖尿病の罹患率との間に正の相関性が存在することが明らかとなった。ダイオキシン類は体内において脂肪組織に貯蔵することならびに脂肪組織機能の変化が糖尿病発症の一因を担うことから、本研究では、ダイオキシン類の受容体であるAh receptor (AhR) を脂肪細胞特異的に欠損したマウス (A-AhR KOマウス) の解析を行った。 高脂肪食下で飼育したA-AhR KOマウスは、コントロールマウスに比較して良好な耐糖能およびインスリン感受性の増加を示した。また、体重増加率ならびに精巣上体周囲および皮下脂肪組織重量に違いは認められなかった。さらに、組織切片を作製して病理学的解析を行ったところ、A-AhR KOマウスの精巣上体周囲の脂肪組織においてマクロファージの浸潤低下が観察された。そこで、A-AhR KOマウスの精巣上体脂肪組織における遺伝子発現量を検討したところ、肥満に伴うMcp1, F4/80などの炎症マーカーおよびTNFα, IL1β, IL6などの炎症性サイトカインの発現誘導の抑制が示された。一方、通常食飼育下ではこれらの差は認められなかった。また、アディポサイトカインおよび脂肪細胞機能関連遺伝子の発現量は、高脂肪食ならびに通常食のいずれにおいても両群間で違いは認められなかった。次いで、高脂肪食負荷した野生型マウスにAhRアンタゴニストを投与し、糖尿病に対するAhR抑制作用の影響を検討した。その結果、アンタゴニスト投与群は、Vehicle投与群に比較して良好な耐糖能および脂肪組織における炎症関連遺伝子の発現減少を示した。 これらの結果は、AhRが脂肪組織における炎症を惹起することで糖尿病発症に関与することを示している。
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