本研究は、ヒト不死化脳毛細血管内皮細胞(HBMEC/ciβ)から分泌されるエキソソーム(Ex)に内包される遺伝子発現情報を解析することにより、細胞内の遺伝子発現量や機能を予測しうる可能性を明らかとすることを目的としている。本年度は、血液脳関門異常時において脳血管内皮細胞からのEx分泌やそこに内包される遺伝子発現情報が変動するか明らかとするため、コリン欠乏HBMEC/ciβによる病態血液脳関門モデルを構築して解析をおこなった。 コリン取り込みトランスポーター阻害剤であるヘミコリニウム-3添加により、コリン欠乏HBMEC/ciβを作成し、バリア機能の解析をおこなった。その結果、正常HBMEC/ciβと比べ、コリン欠乏HBMEC/ciβのNaフルオレセイン透過性は1.5±0.2倍上昇し、これと一致して接着結合を担うVE-cadherinのmRNAおよびタンパク質発現量も低下していた。そこで、コリン欠乏および正常HBMEC/ciβからEx画分を回収し、その分泌量、形状および遺伝子発現情報を解析した。その結果、コリン欠乏HBMEC/ciβにおいてもExの分泌は認められ、正常HBMEC/ciβ由来のものと比べても、その形状に大きな変化は認められなかった。しかし、Ex内遺伝子発現情報を解析したところ、コリン欠乏HBMEC/ciβ由来ExにおけるVE-cadherin mRNA量は、正常HBMEC/ciβ由来のものと比べ低下しており、細胞を用いた解析結果と同様の傾向が認められた。 以上より、脳毛細血管内皮細胞から分泌されるExにはその細胞内の遺伝子発現量情報が内包されていること。また、Exに内包される発現量情報は細胞の状態を反映しうるものであることが明らかとなった。したがって、脳毛細血管内皮細胞から分泌されるExを解析することにより、血液脳関門機能の状態を把握できる可能性があると考えられる。
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