研究課題/領域番号 |
26670075
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
玉井 郁巳 金沢大学, 薬学系, 教授 (20155237)
|
研究分担者 |
中西 猛夫 金沢大学, 薬学系, 准教授 (30541742)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 薬物相互作用 / トランスポーター / BCRP / ドネペジル / 心毒性 |
研究実績の概要 |
薬物動態的相互作用については消化管吸収、薬物代謝、ならびに尿中・胆汁中排泄過程に関わるトランスポーターや薬物代謝酵素がその相互作用メカニズムとして明らかになってきている。このような過程おける相互作用は医薬品の血中濃度変動を伴うため臨床的にもわかりやすい。しかし、血中からの組織移行に働くトランスポーター上での相互作用については、血中濃度変動は小さいが、組織中濃度の変動が大きいこともあり得、その予測は重要である。P-糖タンパク質やBCRPなどABCトランスポーターは脳など関門組織に発現しており組織移行障壁として働く。ドネペジルはアルツハイマー治療薬として繁用されているが、血液凝固阻害薬シロスタゾールとの併用により心毒性が生じた可能性のある臨床報告がなされた。心臓にはP-糖タンパク質やBCRPの発現が示されており、両薬物間での相互作用が生じた場合このような副作用の発現が懸念される。26年度はドネペジルがP-糖タンパク質やBCRPの基質になるかについてin vitro試験系を用い検討した。通常のトランスポーター発現系では、P-糖タンパク質/BCRP以外のトランスポーターが作用する傾向があり、その解析は容易ではなかった。そこで、評価系として対象トランスポーター以外の活性を低下させる工夫を行った。その結果、ドネペジルはBCRPの良好な基質となることが初めて示された。また、P-糖タンパク質については従来の報告では明確ではなかったが、ドネペジルが基質になることを明確にすることができた。一方、シロスタゾールのBCRPに対するIC50値は極めて低く、シロスタゾールの臨床投与量で得られる血漿中タンパク非結合形濃度と同レベルの濃度であった。一方、P-糖タンパク質に対する作用は弱く、臨床的にはシロスタゾールはP-糖タンパク質を介したドネペジルの新組織移行性を増大させる可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドネペジルの心毒性がシロスタゾールによる増大し、それがトランスポーター上での相互作用に起因するという仮説の裏付けを進めた。既に心組織にはBCRPやP-糖タンパク質のような排出トランスポーターの発現が見いだされていたことから、ドネペジル輸送への両トランスポーターの関与が重要であった。初年度においては、in vitroトランスポーター発現細胞を用いた試験結果として、ドネペジルがBCRPおよびP-糖タンパク質の良好な基質であることを示すことに成功した。従来からP-糖タンパク質の関与を示唆する報告はあったが、一方でその関与を否定する報告もあり、P-糖タンパク質の寄与については混沌としていた。また、BCRPに関する報告はなかった。本研究では混沌とした結果が得られている原因として、評価系において対象トランスポーター以外のトランスポーターがドネペジル動態に影響することを見出し、その作用を最小化する工夫を行った。その結果、ドネペジルは非常に明確にBCRPおよびP-糖タンパク質の基質になることを見出すことができた。さらに、シロスタゾールの阻害作用は、BCRPに対して臨床上得られる非結合形血中濃度でも十分生じる程度の強いものであった。しかし、P-糖タンパク質に対するシロスタゾールの作用は臨床上では考えにくいものであった。以上、初年度においてはドネペジルがBCRPによって輸送され、その結果心移行性が抑制されているがシロスタゾール併用時にはその阻害が生じ、ドネペジルの心移行性が高まるために副作用が生じる可能性を支持する成果となった。P-糖タンパク質の関与については否定的な結果となった。
|
今後の研究の推進方策 |
BCRPを発現するin vitroトランスポーター評価系において作業仮説を支持する結果が初年度に得られた。さらに今後は心臓組織ならびにin vivoでこのような相互作用の可能性を示す必要がある。動物試験となるが以下の二点を主に実施する。一つは、腎臓組織切片へのドネペジル蓄積に対するシロスタゾールの作用である。見かけ上、シロスタゾール存在下でドネペジルの心組織移行性の増大を期待する。さらに、in vivoでの薬物動態試験が必要である。ドネペジルは薬物代謝酵素により消失するが、シロスタゾールが本酵素阻害作用を有していればクリアランス上での相互作用によりドネペジルの血中濃度は上昇し、その結果として心組織中濃度も増大するということになる。一方、心組織におけるBCRP上での相互作用であれば、血中濃度の変動以上に心組織中濃度が上昇するはずである。二年目はこのような観点から、動物試験によるドネペジル‐シロスタゾール間相互作用の有無とそのメカニズムを検討する。また、BCRPは血液脳関門にも発現していることから、心組織と同様の現象が脳でも観測される可能性がある。この場合はドネペジルの有効性が高まる可能性も期待できる。したがって、BCRP上での相互作用について、心臓のみならず脳についても対象として、予測される相互作用の意味を明確にする。
|