研究実績の概要 |
複数の医薬品を併用時に生じる薬物相互作用(DDI)は、薬物の体内濃度を変動させ、有効性の低下や副作用の発症など患者不利益になることが懸念されるため、その回避が必要である。薬物代謝酵素ならびに薬物トランスポーターがDDI機構として寄与することが明確になってきており、これら分子を阻害あるいは誘導作用を有する医薬品を併用する場合には注意がなされるに至っている。一方、従来、DDIのリスクは血中濃度の変動が生じた場合にその重要性が指摘されてきているが、実際に副作用と直結するのは作用部位、即ち組織細胞内濃度であることが多い。即ち、たとえ血中濃度に変動がない場合であっても組織中で変動が生じている場合があり、それらは臨床的なモニターが困難であるために見過ごされるDDIとなる可能性が高い。P-糖タンパク質やBCRPなど薬物の組織移行障壁となるトランスポーター上でのDDIは、組織移行性を高めてしまう可能性がある。本研究ではそのような可能性のある組み合わせとして、血液凝固阻害薬シロスタゾールCILによるアルツハイマー治療薬ドネペジルDNPの心臓組織移行性増大を仮定した検討を行った。初年度においてCILがBCRPの強い阻害薬であることならびにDNPがBCRP基質であることを見出した。27年度においては動物試験において、CIL併用によりDNPの心臓組織濃度が増大することをin vivo, ならびに心臓組織切片を用いたin vitro試験系で見出した。一方、DNPの血漿中濃度はCILによって変動しなかった。即ち、DNPに見られたCIL併用時における心毒性はBCRP阻害によるDNPの組織中濃度変動に因る可能性を示した。このような組織中のみで生じる相互作用はLocal-DDIとして申請者はあたらに提唱し学術論文として28年に公表したが、今後注意しなければならない実例として示すことに成功した。
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