研究課題/領域番号 |
26670078
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高野 幹久 広島大学, 医歯薬保健学研究院(薬), 教授 (20211336)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薬学 / 肺胞上皮細胞 / Ⅰ型細胞 / モデル細胞開発 / 分化転換 |
研究実績の概要 |
肺胞上皮はⅠ型細胞とⅡ型細胞からなるが、吸入製剤の主たる薬物吸収部位である肺胞表面の90% 以上を覆っているのは肺胞上皮Ⅰ型細胞である。従って、肺からの薬物吸収や薬物の肺毒性を研究する上で、Ⅰ型細胞は重要なターゲットとなる。しかし現在、広く利用可能な肺胞上皮Ⅰ型細胞の特性を有するヒト由来株化細胞は知られていない。本研究の目的は、薬物の肺挙動・肺毒性研究の推進のため、新たな肺胞上皮Ⅰ型細胞モデルを開発することである。初年度の成果は、以下の通りである。 1)まずヒト由来肺胞上皮細胞のセルクローニングから検討を開始した。ヒト肺胞上皮モデルとして汎用されているA549細胞を限界希釈法によって播種し、コロニー形成後、クローニングシリンダーを用いてセルクローニングを行った。これまでに、20クローンを得た。 2)それらクローンについて、Ⅱ型細胞に比べⅠ型細胞で発現が高いcaveolin-1などのmRNA発現を親株のA549細胞と比較し、その発現の高いクローンを選別した。 3)それらの中で、クローン20(A549/CL20)において、Ⅰ型細胞に特異的に発現しているとされるMDR1 (P-glycoprotein (P-gp))の高発現が観察された。A549/CL20細胞についてローダミン123の取り込みを指標にP-gpの機能活性を評価したところ、親株では見られなかったP-gp活性が認められた。 従って、A549/CL20細胞は、少なくとも肺胞上皮Ⅰ型細胞のP-gp機能を解析する上で、有用なⅠ型細胞モデルと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで株化培養肺胞上皮細胞でP-gpの発現や機能を明確に示した例は少なく、A549細胞においてもコンセンサスは得られていなかった。今回得たA549/CL20細胞は明確なP-gp機能を示したことから、肺胞上皮Ⅰ型細胞の機能解析に有用なモデルと期待される。一方、Ⅰ型化を推し進める因子の探索も平行して行っているが、今のところ明確にⅠ型細胞化を誘導する因子は見つかっていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Ⅰ型化を促進する可能性のある因子(TGF-β1、insulin-like growth factor-I、c-Jun N-terminal kinase阻害剤など)について、さらに検討を進める。また、初年度に得られたA549/CL20細胞を用い、P-gpの発現・機能調節の解析に活用できるか検証するとともに、本細胞の構造的特徴やP-gp以外の機能的特性についても解析を進める。また、Ⅰ型細胞に特異的に発現している遺伝子を導入することで培養肺胞上皮細胞の形質制御(Ⅰ型化)を試みる予定だが、まず導入に適した遺伝子候補について最新の情報を収集・整理し選択する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新たな肺胞上皮Ⅰ型細胞モデルを開発するにあたり、まずヒト由来肺胞上皮細胞A549のセルクローニングから検討を開始した。これまでに、20クローンを得て、またその中にⅠ型細胞に特異的に発現しているとされるMDR1 (P-glycoprotein)を高発現しているクローン(A549/CL20細胞)を見出した。この段階までに思ったよりも時間がかかり、Ⅰ型化を推し進める可能性のある化合物について幅広く検討するには到らなかったため、化合物購入費用の一部を翌年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
Ⅰ型化を促進する可能性のある因子(TGF-β1、insulin-like growth factor-I、c-Jun N-terminal kinase阻害剤など)を購入し検討を進める。また、初年度に得られたA549/CL20細胞を用い、P-gpの発現・機能調節の解析に活用できるか検証するとともに、本細胞の構造的特徴やP-gp以外の機能的特性についても解析を進める。
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