研究課題
肺胞上皮はⅠ型細胞とⅡ型細胞からなるが、吸入製剤の主たる薬物吸収部位である肺胞表面の90% 以上を覆っているのはⅠ型細胞である。従って、肺からの薬物吸収や薬物の肺毒性を研究する上で、Ⅰ型細胞は重要なターゲットとなる。しかし現在、広く利用可能な肺胞上皮Ⅰ型細胞の特性を有するヒト由来株化細胞は知られていない。本研究の目的は、薬物の肺挙動・肺毒性研究の推進のため、新たな肺胞上皮Ⅰ型細胞モデルを開発することである。平成27年度の成果は、以下の通りである。1)初年度にⅠ型細胞特異的に発現・機能している排出トランスポーターP-glycoprotein(P-gp)の発現・機能が高いA549のクローン細胞(A549/P-gp細胞)を得ることに成功した。A549/P-gp細胞について、肺胞上皮Ⅰ型細胞のマーカーmRNAおよびⅡ型細胞マーカーmRNAの発現を親細胞のA549と比較検討したところ、Ⅰ型マーカーは上昇しており、Ⅱ型マーカーは変化が認められなかった。従って、A549/P-gp細胞ではⅠ型細胞としての形質が親細胞に比べて高いものと考えられた。2)肺胞上皮Ⅰ型細胞は、Ⅱ型細胞に比べて扁平の上皮であり、1個の細胞の表面積は広く厚さは薄い細胞であることが、大きな形態的特徴である。しかし、A549/P-gp細胞の形態は、親細胞と同様であった。我々の研究室では、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるphenylbutyrate (PBA)を別の研究目的で用いていたが、偶然、細胞が扁平化することを他の細胞で認めた。そこで、A549/P-gp細胞をPBAで処置したところ、Ⅰ型細胞と類似した扁平状の形態に変化した。
2: おおむね順調に進展している
Ⅰ型細胞特異的に発現・機能しているP-gpの発現・機能が高いA549/P-gp細胞は、肺胞上皮におけるP-gp研究に適した細胞であるとともに、他の遺伝子発現においてもⅠ型形質が高まっていることが明らかになった。さらにこの細胞をphenylbutyrateで処置することで、細胞形態の面でもⅠ型細胞に近づけることができた。これらの結果は、Ⅰ型のモデル細胞の樹立に向けて有望な結果と考える。
phenylbutyrate処置によってA549/P-gp細胞が扁平化したが、その形質については未だ不明であるため、親細胞や未処置のA549/P-gp細胞と比較しながら解析を進める。またこれら細胞を用いて、薬物の輸送や外因性物質の毒性を解析し、Ⅰ型細胞モデルとしての有用性を検証する。
初年度に得たⅠ型細胞特異的に発現・機能している排出トランスポーターP-glycoprotein(P-gp)の発現・機能が高いA549のクローン細胞(A549/P-gp細胞)を中心にその特性を解析し一定の成果を得たが、その有用性の検証に当初の想定よりも時間がかかった。また、Ⅰ型化を進める可能性のある化合物として細胞形態への作用から偶然phenylbutyrateを見出したが、さらに広く検討するには至らなかったため、化合物購入用予算に一部繰越が生じた。
A549/P-gp細胞のⅠ型形質をさらに高める可能性のある新たな化合物を種々購入してスクリーニングを行うとともに、A549/P-gp細胞に対するphenylbutyrateの影響について、遺伝子発現やタンパク質発現の解析を行うための試薬を購入しさらなる解析を進める。
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