研究実績の概要 |
高齢化に伴い患者数の増加が続いている慢性心不全に対する画期的治療薬の開発は、先進諸国にとって急務の課題である。本研究では、「心不全合併症例への投与が禁忌となっているアルツハイマー病治療薬ドネペジル(以下、DNP)が抗心不全作用を有しているのではないか」、との作業仮説を立て、動物実験により仮説を検証するとともにその作用機序をあきらかにする。従来の研究では、DNPは、中枢性アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を持つ薬剤として位置づけられてきた。しかし、ごく最近、申請者によって、DNPが心筋細胞および内皮細胞に直接作用して、HIF-1α,VEGFなどの細胞生存シグナルの誘導をおこなうことがあきらかにされた。このような心筋細胞および内皮細胞に対する直接作用を有するDNPの抗心不全効果を検証することは、挑戦に値する課題である。 1) DNPの単離心筋細胞におけるシグマ受容体を介したACh合成に与える影響の評価:DNPがシグマ受容体を介してACh合成系をどのように変化させるかを細胞学的・分子生物学的に検討した。その結果,DNPによるシグマ受容体転写活性が上昇することが確認された。 2) DNPの単離心筋細胞における細胞保護作用に関する研究:DNPが「シグマ受容体-細胞内ACh合成系」を介して心筋細胞内のストレス応答に関連する情報伝達系(Akt, HIF-1α, bad, bcl-2)の発現にどのような影響を与えるかを検討した。その結果,Akt, HIF-1α等の心筋虚血耐性を増強させる因子の転写活性が上昇することが確認された。
|