mTOR (mammalian target of rapamycin)は生物界に広く存在し、細胞の増殖活性を促す役割を有し、阻害薬は抗がん薬や免疫抑制薬として注目を浴びている。オートファジーは、不要タンパク質や老化ミトコンドリアの自己消化とアミノ酸の再利用を経て細胞死を免れるシステムであり、飢餓への適応とも考えられる。LC3タンパク質は、細胞内オートファゴソームの裏打ちタンパク質として知られ、オートファジー系における腫瘍タンパク質であることが知られている。mTOR阻害薬は、細胞増殖活性を阻害するとともにオートファジーを活性化し、その指標とされるLC3タンパク質の産生亢進に繋がることが想定されることから、本研究では腎臓におけるmTOR阻害薬の効果指標として尿中のLC3の有用性を明らかにすることを目指して検討を進めた。計画の延長を含めて合計38例の腎移植患者の尿検体を用いて尿中LC3タンパク質の定量数値化を試みた。その結果、患者の尿中にLC3タンパク質は検出されたこと、mTOR阻害薬の使用によって漏出される傾向が満たられたことから、臨床指標として期待された。一方、尿中LC3漏出量とmTOR阻害薬であるエベロリムスの血中濃度、移植腎の機能推移、腎障害の程度との有意な対応は見られなかった。したがって、現状においては尿中のLC3タンパクの漏出の程度をmTOR阻害薬の効果指標として用いることは難しいと考えられるが、今後臨床症例の追加を検討し、患者背景を整えた上で再検討を行う予定である。
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