研究課題/領域番号 |
26670094
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
荒木 伸一 香川大学, 医学部, 教授 (10202748)
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研究分担者 |
江上 洋平 香川大学, 医学部, 助教 (80432780)
川合 克久 香川大学, 医学部, 助教 (80534510)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光線力学療法 / 抗がん剤 / 顕微鏡 / PI3キナーゼ阻害剤 / ライブセルイメージング |
研究実績の概要 |
光線力学療法は、がん細胞に 選択的に集まる感受性物質を体内に投与し、レーザー光線を照射することでその薬剤から発生するフリーラジカル分子でがん細胞を死滅させるという新しい治療法である。本研究は、経口がん治療薬として開発された新規PI3K阻害剤(XL-147)を光線力学療法の新しい感受性物質として利用を確立しようとするものである。本年度は、上皮系がん細胞 (A431細胞)、前立腺がん細胞(PC-3細胞、LNCaP細胞)、膀胱がん細胞(253J細胞)、白血病由来マクロファージ(RAW264)を用いて、in vitroでXL-147処理後に光刺激蛍光顕微鏡でライブ観察を行い、光照射をした細胞の傷害を位相差顕微鏡による形態変化、細胞表面のブレッブ形成を指標にして評価した。XL-147存在下で特定の細胞に光を当てると、どの種類のがん細胞においても、照射2~15分で細胞表面にコブのようなブレッブが形成され、ついで細胞内に空胞化が起き細胞死に至るようである。光を当てていないまわりの細胞には障害は認められない。照射光の波長は430 nm, 470 nm, 530 nm の三つで一定の強度で比較したところ、430 nmが、最も短時間でブレッブを形成した。また、ブレッブ形成までの時間や細胞傷害の程度は、照射光の強度にも依存する。XL-147濃度は、100 nM-2μM範囲で濃度を上げるとブレッブ形成が起きるまでの時間が短縮する傾向が見られた。XL-147なし(DMSOだけ)の場合は、同程度の強度の光照射でブレッブ形成、細胞傷害は認められなかった。以上の結果から、XL-147は、照射する光の波長及び強さ依存性にがん細胞を傷害することができることが証明され、光線力学療法の光感受性物質としての利用が有望である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な種類のがん細胞株を用い、抗がん剤であるXL-147存在下で光刺激蛍光顕微鏡による光照射でがん細胞に傷害を与えることを確認することができた。細胞傷害の程度は、XL-147濃度、光の波長と強度に依存し、新しい光線力学療法の光感受物質として利用することができることが示された。がん細胞と非がん細胞への効果・影響の差異についてはまだ明確にされていないが、この顕微鏡を用いたライブセルイメージングでのアッセイで 、XL-147をもちいて多くの種類のがん細胞を傷害する条件を確立することができたので、計画はおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
XL-147存在下での光照射でがん細胞は数分程度で細胞死に至るが、照射からの効果が表れる までの時間が短いことから、これまでのPDTに使われているポルフィリン系薬剤と同様 にXL-147が光と反応しフリーラジカルを生成し、活性酸素などによる脂質過酸化、 機能タンパク質の酸化により細胞に傷害を与えることが考えられる。この仮説を証明するために、細胞内での活性酸素生成や脂質過酸化反応を生き た細胞内で可視化できる蛍光試薬により蛍光ライブセルイメージング、定量解析をおこなうことでXL-147の光照射によるがん細胞傷害のメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、主に様々ながん細胞株を用いて、XL-147の光感受性物質としての効果を調べた。細胞株は、すでに研究室に所有するもので他の研究プロジェクトで利用しているものを用いたため、細胞培養にかかる経費がかからなかった。所有していない非がん細胞やPI3K遺伝子高発現細胞に関する実験は、平成27年度に実施する予定である。研究論文としてのプライオリティを保つため、早期の学会での研究成果の発表は控えた。
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次年度使用額の使用計画 |
現在研究室に所有していない非がん細胞を購入し、がん細胞とのXL-147細胞傷害効果の差異を明らかにする予定である。また、PI3K遺伝子プラスミドの構築、クローニングを行いその遺伝子導入によるPI3K高発現細胞を用いての実験を実施するために経費を利用する。
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