研究課題/領域番号 |
26670097
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
水谷 健一 同志社大学, 脳科学研究科, 准教授 (40469929)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 大脳皮質 / 神経発生 / 血管発生 / 活性酸素 / 低酸素 |
研究実績の概要 |
これまでの申請者の研究から、①発生期大脳皮質における微小血管の発生は極めて秩序だった発生様式を示すことで、特徴的・規則的な微小血管が構築され、②結果として、発生過程を通して、決して血管が発生・侵入できない領域が存在することを明らかにしている。興味深いことに、この領域は周囲と比較して低酸素に保たれており、ミトコンドリア局在型の活性酸素種の産生が促されていることが確認されていることから(未発表)、神経幹細胞が増殖と分化を繰り返す極めて重要な領域で、血管発生を敢えて抑制するという生理現象の意義に興味が持たれる。本研究提案は、『血管が発生・侵入できない領域』の分子環境を解明すると共に、この領域が酸素環境の調節や代謝変化に如何なる意義を果たすのかを明確化することを目的とする。 研究実績として、先ず、(1)血管リポーターマウス(Flt-tdsRed BACトランスジェニックマウス)を活用して、マイクロダイセクションによって、血管発生が特異的に抑制されている領域をサンプリングし、RNAを精製した。これを用いてDNAマイクロアレイ解析を進めており、これにより、局所的に血管発生を抑制しうる分子メカニズムを明確化することを目指している。更には、(2)この『血管が発生・侵入できない領域』が低酸素環境の維持、活性酸素種の質的・量的な変化、代謝調節を介して、如何に、神経分化の制御に関与するかを、化学プローブの活用によって解析を行い、この領域はある種のROS産生が顕著に高い環境であることが見出された。 今後、(1)と(2)の関連性を明らかにすることで、血管発生が抑制される分子機序と、その生理的意義を解明したい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発生期大脳皮質の特異的な領域に形成される「血管が発生・侵入できない領域」と、V「血管が極めて密に発生・侵入する領域」の分子的な違いは何なのか?、また、その生理的な意義は何なのか?この答えを得るために、先ず血管リポーターマウスであるFlt-tdsRed BACトランスジェニックマウスを活用して、①前者と後者の組織をコンフォーカルマイクロダイセクションにより各々サンプリングし、両者間の遺伝子プロファイリングを行うことを目的として実験を展開した。様々な技術的な障壁が存在したが、共同研究者からの助言・協力により、両者をサンプリングしてDNAマイクロアレイ実験を行うことができた。 また、②発生期大脳皮質におけるROSの質的・量的変化を解析するために、種々のROS種特異的な応答プローブを活用して(O2-、H2O2、ONOO-、NO、総ROS量を各々特異的に検出する個々の化学プローブ)大脳皮質分散細胞を解析し、如何なる種類のROSがどの程度、どの分化過程の細胞内で存在するかについて、解析を進めた。興味深いことに、幾つかのROS量について、未分化細胞と分化細胞では明瞭な相関性があることが明確化された。 このため、本研究で着目していた生理現象の一端が明らかになったことから、現時点で概ね順調に研究プロジェクトが進行していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、①「血管が発生・侵入できない領域」の構築に関与する分子機序をDNAマイクロアレイと質量分析解析によって解明する。 また、②発生期大脳皮質における分化状態の変化と密接に関与するROSの質的・量的変化について更に解析を進めるために、大脳皮質分散細胞を解析し、如何なる種類のROSがどの程度、どの分化過程の細胞内で存在するか、あるいは、血管との位置関係、酸素分圧の変化との関連性等について検討する。さらには、上記の細胞集団をROS量の高低でセルソーターにより分取し(例えばO2-high細胞集団とO2-low細胞集団、発現プロファイリングを行うことによって、ROSの質的・量的変化と分化制御の関連性を明らかにする。更には、『血管が発生・侵入できない領域』に存在する神経幹細胞をマイクロダイセクション後に上記の手法で各ROS量を評価すると共に、代謝産物をメタボローム解析し、代謝経路の同定と代謝レベルの解析を行う。 これらの複合的な戦略によって、大脳皮質発生過程における血管発生の制御、これによってもたらされる酸素リモデリングの役割を明確化する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額を確保したことで、本研究計画に従事する研究補助者への人件費を確保することができた。これにより、本研究計画を継続的に展開することで、さらに飛躍的な研究成果が期待される。
|
次年度使用額の使用計画 |
上述のとおり、次年度使用額を確保した目的は、1年間安定的に研究補助者の人件費とするためである。
|