研究課題/領域番号 |
26670099
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神崎 展 東北大学, 医工学研究科, 准教授 (10272262)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 骨格筋 / 細胞内小胞輸送系 / イメージング / GLUT4 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,骨格筋ファイバー内における小胞輸送動態を定量的に解析できる単一分子視覚化ナノ計測系を構築することを目的としている.H26年度は,骨格筋において生理的に重要な役割を担っているインスリン応答性糖輸送担体(GLUT4)の運搬に関わる輸送小胞を蛍光ナノ材料である量子ドット(Qdot)にて特異標識する技術を確立することと,単離筋ファイバー内のライブイメージング観察系を構築することの2つの研究開発を行った.骨格筋内のGLUT4分子を単一分子レベルで可視化するために骨格筋特異的にTag付加タイプの遺伝子改変型GLUT4 (myc-GLUT4-EGFP)を発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作製した.そして,このTgマウスのヒラメ筋と長指伸筋よりライブイメージング観察に適した健全な骨格筋ファイバーを単離する手法を確立した.さらにこの単離筋ファイバー内の上記myc-GLUT4をQdot標識抗myc抗体で特異的に標識することにより骨格筋ファイバー内での小胞輸送動態をライブイメージング観察することに成功した.また,このTgマウスの骨格筋を単離後に各種の細胞内オルガネラ膜を免疫染色して G-STED顕微鏡を用いた超解像イメージングに最適化した観察できる手法を確立した.さらに,上記は単離した筋ファイバーでの顕微鏡観察系であるが,加えて多光子顕微鏡を用いることにより,生きたTgマウスの大腿四頭筋でのGLUT4-EGFP輸送過程をライブイメージング解析することにも成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
骨格筋ファイバーは他の細胞と大きく異なり,構造的に極めて特殊な形態を呈している.特に細胞内オルガネラ膜構造は階層的に整然と配列しているものの,それらの間を往来する輸送小胞の運搬動態に関する解析については,観察の困難さからほとんど手つかずままである.本年度は骨格筋の生理学的役割として最も重要な小胞輸送制御系の一つであるGLUT4輸送動態を定量的にナノ計測解析することを可能にするために,生筋ファイバー内におけるGLUT4をQdotで特異標識してライブイメージング観察することに成功しており,この革新的な手法を駆使することにより,インスリンや収縮運動といった刺激に伴うGLUT4輸送動態の変動を定量的に解析することが世界で初めて可能となった.さらに, G-STED顕微鏡をもちいた筋ファイバー内のGLUT4輸送小胞の超解像観察も達成することができた.これらの解析基盤をもとにしてこれまで未解明であった骨格筋ファイバーにおける小胞輸送制御に関する研究を著しく進展させることができると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
H27年度は,これまでの研究開発によって独自に構築した骨格筋ファイバー内でのQdot標識GLUT4分子のナノ計測解析系と,超解像顕微鏡観察系を組み合わせたより生理学的な研究を推進する.特に,骨格筋が示す最も重要な生理的応答の一つである運動効果,特に運動刺激後に観察されるインスリン感受性の亢進現象に関わる生体ナノシステム制御メカニズムの解明に着手する.GLUT4分子に加え,異波長Qdot標識トランスフェリン受容体を同時に可視化ナノ計測解析する.さらに,初期・選別・後期エンドソームや,トランスゴルジ網を経由した輸送小胞といった各種の小胞群も同時に可視化して,それらの構造的・機能的なダイナミクス制御を理解することに挑戦する.そして,分子動態生理学的データと超解像イメージングデータを精密に定量解析することにより,新しい学問体系ともなる「分子動態生理学」の研究手技と概念を構築したい.
|