研究実績の概要 |
本研究においては、ミトコンドリア代謝によるリンパ球細胞遊走・走化制御という新たな仮説の確立を、細胞生理学実験と数理モデル解析を組み合わせた手法で挑戦した。これまでに、培養Bリンパ球細胞A20において、ミトコンドリア代謝に関与すると考えられるミトコンドリアNa-Ca交換輸送体NCLXをsiRNAでノックダウンすると、ランダムな細胞運動が増加するが、ケモカイン(CXCL12)に対する細胞走化は抑制されることを示している。今年度は、そのメカニズムをさらに検討した。細胞質CaをFura 2-AMを用いて測定したところ、NCLX抑制により細胞質Caが約15%増加した。また、コントロールではCXCL12添加により細胞質Caは約20%増加したが、NCLXを抑制したA20細胞ではCXCL12添加による細胞質Caのさらなる増加はなかった。NCLX抑制による細胞質Ca増加が、ランダムな細胞運動増加と細胞走化抑制に関係すると考えられた。これらの結果をまとめて論文投稿した。さらに、A20細胞の細胞遊走に対する代謝阻害の効果を検討した。解糖系を阻害する2-deoxy-D-glucose (10 mM)を培地に添加し、4時間細胞運動を観察したところ、コントロール細胞に比べて細胞運動に対する明らかな影響は見られなかった。一方、ミトコンドリアβ酸化阻害剤であるEtomoxir, 2-[6-(4-chlorophenoxy)hexyl] oxirane-2-carboxylate (40 uM)添加により細胞運動が抑制される傾向があった。ミトコンドリアβ酸化が細胞遊走・走化に重要な役割を担う可能性が示唆された。
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