研究課題/領域番号 |
26670102
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡村 康司 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80201987)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 脂質 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本研究では、KirチャネルとHCNチャネルのPIP2依存性と、Ci-VSPの電位依存的PIP2脱リン酸化活性に基づいて、自律的に膜電位を変動させる遺伝子ツールキットを構築することと、HCNチャネルのイノシトールリン脂質による制御機構を解明することを目的としている。当初用いる予定であったウニ由来HCNチャネルの替わりに、ヒトに近い系での適用を考える上で有利な哺乳類由来のクローンを用いることとした。mouse HCN2のcDNAのプラスミドをイタリア、ミラノ大学のDr. Annalisa Bucchiより供与してもらった。mouse HCN2のcRNAをin vitroで合成し、Ci-VSPのそれとXenopus oocyteへ共発現させ、2本微小電極による膜電位固定法によるHCNチャネル電流の計測を行った。プレパルスの脱分極によるVSPの活性化によって、PIP2レベルを減少させたときに、過分極で活性化されるHCNチャネル電流のコンダクタンスおよび電流電圧曲線の変化を検討した。その結果、VSPの活性化により、電流電圧曲線が過分極側にシフトする傾向が見られた。また10%から20%程度のコンダクタンスの減少も観察された。しかし、コンダクタンス量の減少の程度と、電流ー電圧曲線のシフトは、細胞毎にばらつきが大きく、Ci-VSPの発現の程度によっても、結果が大きく変動することが明らかになった。この細胞毎のばらつく原因として、HCNチャネルにはcAMP感受性が内在しておりoocyte毎のcAMPの濃度が異なることに由来するのではないか、と考えるに到った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、HCNチャネル活性のPI(4,5)P2依存性を明らかにし、Ci-VSPにより電流量と電位依存的ゲート特性がどのように変更されるかを明らかにすることが最も重要な過程のひとつであった。現時点で、すでにVSPを用いて、HCNチャネルのコンダクタンスの減少と、電流電圧曲線の過分極側へのシフトが見られており、PI(4,5)P2の減少によってHCNチャネルの活性の減弱が期待され、今後Kirチャネルを合わせて用いることで、自律的な膜電位変化をもたらせる可能性がでてきた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験に於いて2つの克服すべき点があることが判明した。まず、細胞毎のばらつきが大きかった。これは、cAMPによりチャネル特性が変化することによる可能性が考えられた。そこで、cAMP感受性部位を変異させたコンストラクトを用いて実験を行う。また、VSPの効果は、Ci-VSPの発現量に依存することから、HCN2とCi-VSPの発現比率により効果の見やすさが変動する。そこで、HCNチャネル電流の変化が見やすい、Ci-VSPの発現量を検討する必要がある。発現量の調節が行いやすいアフリカツメガエル卵母細胞の系で実験系が確立したら、培養細胞での実験に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予想に反して、cAMP結合部位の存在のために、VSPによるPIP2濃度変化に応じたHCNチャネル電流の変化を安定に計測して、評価することが難しいことが判明し、cAMP結合部位の変異を導入する必要があることがわかった。今回cAMP結合部位の問題が判明したのは、3回の発現実験を行った段階であり、すでに確立している実験系を利用して計測を行うことができた。そのため、当初積算していた、発現実験にかかる物品は今回購入せずに実験を行うことができ、次年度の実験の際に購入する計画となった。
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次年度使用額の使用計画 |
今後cAMPの結合部位を変異させたコンストラクトを利用できるようになったら、分子生物学および生理学関連の物品を購入して、頻繁にcRNAの合成や顕微注入を行う計画である。また、細胞培養のための血清や抗生物質などの物品を購入して培養細胞での発現実験や、イメージング実験を行う計画である。また、情報入手のための出張を行い、イノシトールリン脂質とイオンチャネルの相互作用について専門家の意見をきく計画である。
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