電位センサードメインの状態遷移機構の詳細は明らかとなっていない。燐光物質とし知られるエオシンを、マレイミド基を介してシステイン残基に結合させ、状態遷移に伴う偏光回転の時系列観測に取り組んだ。ツメガエル卵母細胞の膜電位固定実験系において、パルスYAGレーザー(532nm)を光源として用い、線偏光状態の励起パルス光を、x20対物レンズを介して細胞に照射した。モデルとして、単量体として機能する事が知られる電位依存性フォスファターゼの電位センサーを用いた。燐光は回転偏光子を介して時間ゲート付きの光電子増倍管モジュールで検出した。十分に長い燐光強度を得るためには低酸素状態で計測を行う必要がある。記録液中の酸素濃度をグルコース酸化酵素で低下させ、さらに記録チャンバーをカバーで覆い窒素を通気させた。溶存酸素は光学式酸素プローブでモニタした。光電子増倍管からの出力電流の記録と、偏光子の回転、光電子増倍管のゲート信号、励起パルス、膜電位コマンドのタイミングを同時制御し、繰り返し計測を行う事により脱分極に伴う燐光の偏光角度依存性を時間計測した。ピーク角を自動解析するソフトウェアを開発し、0.01ミリ秒の時間分解能、4度の角分解能で数ミリ秒間の追跡を試みた。 実験の結果、二つの主要な課題が明らかとなった。低酸素下では極めて初期状態の良い細胞でない限り実験が困難である点、データの過小評価の要因となる背景光の寄与を正しく見積る事が困難な点である。これらの諸問題により十分に信頼性のある定量計測には至っていないが、今後、例えば、全反射照明系を用いて背景光を低減させる、より明るい燐光色素や、特異性の高いラベル法を用いる事で対処できる可能性がある。また、最終年度には、非天然アミノ酸を用いたS1セグメントにおける局所構造変化の解析や、二価カチオン透過性をもつ電位センサーの解析にも取り組んだ。
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