研究課題
本研究では、恒温動物がもつ低温への生体応答反応とその生理的意義を明らかにし、その研究成果を脳、免疫、内分泌など多様な生体機能の維持・改善・操作に利用・応用することを目指している。これまでに、独自に見いだした新規低温応答性シグナルである膜型分子SIRPαのチロシンリン酸化について検討を行っている。恐怖条件付けテストで低体温の記憶形成への影響を検討した結果、電気ショック直後の浸水誘導性低体温により、文脈記憶の指標となる“フリージング”の減少傾向が見られる一方、野生型マウスとSIRPα KOマウスの間に明確な行動の違いは見いだせていない。また、血清除去による細胞死が低温により抑制される現象にSIRPαシグナルが関連するかどうかについて、野生型マウス、SIRPα KOマウスの大脳皮質から培養した神経細胞を用いた検討を行ったが、低温の細胞死抑制効果自体が明確に確認できず、またSIRPαの有無による応答性の違いも見いだせていない。一方、複数の薬理的手法でマウスに低体温を誘導し、解析を行った結果、SIPRα KOマウスではグラム陰性菌の内毒素であるLPSの作用(低体温、sickness behavior)がより強く表れる傾向を示すデータを得つつある。現在、この実験系を中心に、低温誘導性SIRPαリン酸化シグナルと低体温に関連する脳内サイトカイン量の変化との関連、あるいは低体温の誘導・維持との関連についての検討、質量分析による低体温時SIRPα複合体の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
KOマウスや培養細胞を利用した実験系で、SIRPαシグナルと生体の低温応答との関連を検討したが、記憶や神経細胞死との関連を明確に示すデータはまだ得られていない。しかし、SIRPαの低温応答性と生体機能の関連を示す事が容易でないことは計画立案時点である程度想定しており、その中で、LPS応答性低体温の誘導がSIRPαと何らかの関連をもつことを見出しつつある点を評価した。このKOマウスの表現型は神経・免疫・内分泌のいずれの生体制御系とも関連する可能性があり、今後の重要な研究対象となると考えている。
低温誘導性SIRPαリン酸化シグナルと、LPSによる低体温の誘導・維持、あるいは脳内サイトカイン産生との関連を検討する。特に、サイトカインを中心とした免疫系・内分泌系など末梢の応答と中枢の応答を分けて検討するために、コンディショナルKOマウスを使った解析を行う。また、低体温を誘導する他の薬剤の作用や、低体温時の脳内遺伝子発現の変化についてKOマウスを使った検討を進める。さらに、低温応答性のSIRPαシグナルの分子機構を明らかにするために、低温時および非低温時のSIRPαシグナル複合体の生化学的解析を進める。
条件検討などの予備実験を予定よりも少人数で進めたため、実験補助員などの人件費を中心に次年度使用額が生じた。
計画を効率的に推進するための人件費、消耗品費として使用する。特に共同研究による質量分析などを予定しているため、打ち合わせの旅費、消耗品の購入、サンプル調製・輸送など費用に使用する計画である。
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