概日リズムは、生物の多様な生命現象に観察される日周変動であり、生体の個々の細胞に存在する細胞時計により形成される。脊椎動物の細胞時計の実体は一連の転写因子群(時計蛋白質)から構成される転写に依存したフィードバックループである。この細胞時計の活性が約24時間の周期で細胞自律的に振動することが、行動、睡眠、代謝といった様々な生理機能に概日リズムを形成するために必須の過程である。本研究は、哺乳動物と共通の概日リズム制御機構を有するゼブラフィッシュの行動を指標とした化合物スクリーニング系により、概日リズム形成に関わる分子を網羅的に探索した。本研究で使用した化合物は全て標的既知であり、従って概日リズム形成に影響を与える化合物を選定できればその標的分子を容易に同定することができる。今回の化合物スクリーニングにより、個体レベルの概日リズムの形成を担う新規分子を複数同定することに成功した。また同定した分子を機能阻害した遺伝子改変ゼブラフィッシュをゲノム編集技術を用いて作出し、作出した遺伝子改変個体が行動と睡眠における概日リズムに異常を示すことを確認した。概日リズムは、生物の恒常性維持を担う重要な機構であり、その異常は睡眠障害、代謝異常、及び発癌といった様々な疾患につながる。概日リズムがどのように形成されるかを解明することは、その異常と関連する様々な疾患の予防ならびに治療戦略を構築する際に有益を知見を提唱すると考えられる。
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