心不全の慢性的交感神経活性化は予後の増悪因子であり,医療標的である.私たちは先行研究において,「心不全において骨格筋中の活性酸素産生に関わる分子基盤が変化することで亢進する酸化ストレスが,活動筋反射弓を介して交感神経活動亢進を過剰にする」ことを,”除脳”動物での生理実験から明らかにしている.本研究では,「骨格筋の分子基盤に介入して酸化ストレスを抑制することで,心不全の交感神経活性化などの自律神経機能不全を治療・予防的に抑制できる.」との仮説を,”覚醒”動物での生理実験から検証する. まず,上記の仮説の検証に有効となる,心不全の発症前から発症後まで継続してラット交感神経活動を記録する実験系の構築を目指した.腎交感神経活動の安定した記録は最長でも二週間程度であったため,超長期交感神経活動記録系の構築を断念した. 次に,全身性に骨格筋の収縮を伴うすくみ行動時の自律生理反応を,健常ラットと心筋梗塞由来の心不全ラットとで比較した.血圧上昇は同程度であったが徐脈反応は心不全群でより大きかった.この結果から,すくみ行動時の交感神経賦活は心不全群でより大きいことが推察される.しかし予想と反し,実測された腎交感神経反応には差が見られなかった.さらに後肢骨格筋循環を標的として抗酸化薬を動脈内投与しても,すくみ行動時の自律生理反応に影響はなかった.本研究では,覚醒下では「骨格筋の抗酸化処置が心不全での自律神経機能不全に対する医療となり得る」ことを示す実験データを得なかった.
|