精神機能とDNAメチル化との因果関係を調べるにあたり、DNAメチル化の組織特異性を考慮すると、脳組織を得る必要があるが、生きた人間から脳組織を得ることはできない、というジレンマからこうした研究が進みにくい。そこで、さい帯血に由来する胚性様-神経幹細胞を分画し、これが脳組織の機能を反映する試料として妥当性があるかを検証すること、更にこの試料のメチル化と乳幼児期の自閉性、脳の性分化との関連性を調べることを目的に研究を行った。 本研究の進行の上で、重要な課題の一つであったのは、さい帯血に由来する胚性様-神経幹細胞の分離とDNAのメチル化解析であった。本年度は、上記解析の試料となるさい帯血の収集を出生コホートから行った。また、自閉性、脳の性分化との関連性が報告されている、オキシトシン受容体遺伝子、アンドロジェン受容体遺伝子のプロモーター領域に注目し、それぞれ2箇所、21箇所のCpG領域のメチル化解析を確立させた。まず、血液と唾液試料でこの領域のメチル化についての組織特異性の有無を調べた。 その結果、少なくとも今回検討した同遺伝子の解析領域については、メチル化率は、血液と唾液での違いは殆どなく、同様なパターンを示した。唾液由来DNAの殆どは、唾液中の白血球に由来することが多いと報告されている為、血液に近いメチル化状態であることが予想された。 今後、今回解析した試料から得られた結果と、さい帯血に由来する胚性様-神経幹細胞の分画を解析した結果とを比較し、メチル化率の違いの有無を検証し、また、乳幼児期の自閉性、脳の性分化との関連性を検討することから、脳組織の機能を反映する試料としての妥当性の検証を進めて行きたい。
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