研究課題/領域番号 |
26670119
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松本 明郎 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60437308)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 分子状水素 / グレリン / 転写制御 / 受容体 |
研究実績の概要 |
最小の分子である水素(H2)が,生体において虚血再灌流障害・神経変性疾患・心肺停止後蘇生などに対して医学的に有効性を示すことが報告されているが,その作用機序は明らかではない.研究代表者らは水素水を飲水することにより胃におけるグレリン産生が亢進し,実験的パーキンソン病を改善させることを初めて見出した.一方,交感神経β受容体遮断薬は,水素水によるグレリン産生亢進とドパミンニューロンの保護効果を阻害することから,交感神経系に着目して分子状水素の作用を検討することにした. 本年度は分子状水素による遺伝子の転写制御機構を明らかにすることを目的として,グレリン遺伝子の5’上流域を用いたプロモーターアッセイにより,分子状水素の作用領域を検討した.グレリン遺伝子5’上流域を順に1.8,1.2,1.1,0.5 kbpをプロモーターアッセイ用ベクターにクローニングした.培養細胞に遺伝子導入した後,ルシフェラーゼ活性測定により転写活性を定量化した.その結果,分子状水素の負荷によりグレリン遺伝子の転写が活性化されることが示され,分子状水素の負荷に反応しグレリン遺伝子の転写活性を引き起こす領域の存在も明らかになった.これらの成果より,分子状水素が転写活性を直接的または間接的に調節しグレリン遺伝子発現を調節していることが明らかになった. β受容体の関与について検討するため,交感神経受容体が機能的に発現していることが知られている培養細胞系を用いて,β受容体シグナルのリアルタイム評価系の構築を行っている.評価系の構築と特異的反応性の確認がほぼ終了した状況にある.次年度以降は,本評価系を用いて分子状水素による交感神経シグナルへの影響を刺激薬・阻害薬や細胞内セカンドメッセンジャーに対する修飾作用を有する薬物などを併用する薬理学的な手法を用いることにより,キネティックスに着目した検討を進めていく予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は初年度に以下の2点についての解析を計画した. 1.プロモーター解析により分子状水素によるグレリン遺伝子の転写制御を検討する.2.分子状水素の作用点を培養細胞系で検討する. 計画通り本年度は培養細胞を用いた5’プロモーターアッセイを実施した.分子状水素の負荷によりグレリン遺伝子の転写が活性化されることが示され,分子状水素に対する反応領域が存在することも明らかになった. 次に分子状水素の作用点を検討する目的で,交感神経系に着目して検討を行っている.マウスに対してβ受容体遮断薬を前投与するとグレリンの基礎分泌量が低下するのに加え,分子状水素による分泌亢進作用も減弱する.そのため交感神経β受容体の関与が示唆されていた.そこで,交感神経受容体が機能的に発現していることが知られている培養細胞系を用いて,受容体刺激薬・阻害薬の併用による変化,ならびに細胞内セカンドメッセンジャー濃度の調節を目的とした薬物の併用をおこない,グレリン産生亢進に関わる分子状水素の作用点を明らかにするべく検討を行っている. また細胞内情報伝達系全てに関わることが明らかな,細胞内でのエネルギー代謝に関する検討も実施した. 計画書に記載した年次計画はほぼ予定通りに遂行され建設的なデータが得られており,概ね順調に進展していると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度で構築したβ受容体シグナルのリアルタイム評価系を用いて,分子状水素による交感神経シグナルへの影響を刺激薬・阻害薬や細胞内セカンドメッセンジャーに対する修飾作用を有する薬物などを併用する薬理学的な手法を用いることにより,キネティックスに着目した検討を進めていく予定である.さらに,マウス個体に対して水素吸入,水素水投与を行い,主に交感神経系の反応に着目した解析を実施する予定である. これらの検討から,これまで科学的に明らかではなかった分子状水素の生体に対する作用を分子レベルで明らかにすることができるものと考えられる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費・旅費に関しては予定通りの支出であったが,人件費の支出が減少したため次年度使用額が生じた.交付決定後に急遽学内予算にて7ヶ月分の人件費が補充された.そのため,研究計画の実施に関しては予定通り進行することができた.
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,化学発光法を用いた細胞内シグナルのリアルタイムアッセイに必要な高額な試薬・消耗品(96サンプルあたり約12,000円程度)に充当される.また,論文投稿先としてオープンアクセスを選択した場合の掲載費(約15万円)にも用いる予定である.
|