研究課題/領域番号 |
26670128
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
小浜 一弘 武蔵野大学, 薬学研究所, 客員教授 (30101116)
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研究分担者 |
大室 弘美 武蔵野大学, 薬学研究所, 教授 (00124470)
懸川 友人 城西国際大学, 薬学部, 教授 (80169391)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞骨格 / アクトミオシン系 / ミオシン軽鎖キナーゼ / 発現阻害 / 細胞分裂 / 細胞核分裂 / 血管細胞 / 細胞内情報伝達 |
研究実績の概要 |
ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)は細胞運動のみならず、細胞質分裂及び細胞遊走等で重要な役割を果たすことが明らかにされている。血管平滑筋細胞(VSMC)の病態生理においては、その増殖は重要な課題である。VSMCにはMLCKが制御因子として存在する。このMLCKは、名前の通りミオシン軽鎖をリン酸化する酵素であり、ミオシンを活性化する機能を持っているが、他にアクチンに結合する能力を持っている。しかし、このような多機能性を有するMLCKのVSMCの増殖における機能は、十分には解明されていない。 申請者らは、種々の方法でVSMCにおけるMLCKの発現を阻害したところ、予想に反して細胞増殖が観察されたことから、MLCKは増殖には阻害因子として作用すると考えられた。細胞増殖は細胞分裂により起こり、その細胞分裂は細胞質分裂と細胞核分裂に分けることができる。この細胞質分裂には、アクトミオシン系が関与するとされている。申請者らの上記データは、これに一石を投じるものであり、細胞質分裂ではミオシン軽鎖のMLCKによるリン酸化の関与についての再検討、細胞核分裂ではMLCKのアクチン結合能を介するアクトミオン系の関与を検討・チャレンジする余地を与えている。 平成27年度は、VSMCの増殖を血管の病態と結びつけるため、動脈硬化モデルマウスの胸部大動脈を用い、細胞内情報伝達系ERK・MAP系の役割等について解析し、論文発表を行った。また、MLCKをノックアウトした血管平滑筋細胞の遊走能等に関する研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞核分裂は、動脈硬化(AS)病態の発生と密接に関係している。我々は、ASを引き起こすサイトカイン類の作用の解明により、細胞核分裂のメカニズムの一端を明らかにすることができると考え、平成27年度は主に細胞内情報伝達系ERK・MAP系とHeat Shock Protein(HSP)60の関係について解析し、論文を発表した(項目13参照)。その概要は以下の通りである。これ以外にMLCKをノックアウトした血管平滑筋細胞の遊走能等に関する研究を行った(項目12参照)。 ASモデル動物の摘出胸部大動脈を用いた検討において、1)AS発症によりHSP60のmRNAのみならず、蛋白質発現も増加することを明らかにした。また、培養動脈由来細胞を用いた検討で、2)PDGF-BB又はIL8刺激によるHSP60の増加が確認された。3)HSP60刺激により同細胞の遊走能が増加したため、4)HSP60刺激に関連する細胞内情報伝達系の酵素についてその阻害剤を用い検討したところ、ERK阻剤(U0126)が細胞遊走を抑制した。U0126はERKのリン酸化を阻害することから、HSP60の増加はERK・MAP系が刺激されたためと考えられた。さらに、5)細胞外に分泌されたHSP60の作用点であるTLR4(Toll like receptor4)の発現をsiRNAで阻害したところ、HSP60刺激によるVSMCの遊走能が低下した。また、6)細胞遊走を促進しAS発症の初期に重要な働きをするIL8の発現もHSP60刺激により上昇した。以上より、HSP60の細胞遊走能促進効果は、TLR4、ERK/MAP系を介する細胞内情報伝達系が関与しており、PDGF-BB 及びIL8は、この系を増強すると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、項目11に記載した研究成果に加え、以下のようなデータを得ている。ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)は細胞分裂以外に細胞遊走にも重要な役割を果たすことが報告されており、さらに、MLCKをノックアウト(KO)した細胞(MLCK-/-)では、遊走能が上昇するという報告があっため、本研究で用いている動脈由来細胞(VSMC)(以下、野生株)のMLCK KO細胞(MLCK-/-、以下「KO細胞」という。)の遊走能を検討した(Ibidi社製の装置を使用)。その結果、培養6時間後では、MLCKをKOしていない細胞に比べMLCK KO細胞では遊走能が上昇していた。 平成28年度は、以上のデータ等をもとに、①MLCK KO株(MLCK-/-)の細胞ライセートから、i)全RNA及びⅱ)3個以上のribosomeが結合したRNA画分を集め、i)及びⅱ)のmRNA発現をDNAアレイ法により網羅的に比較する。②野生株(MLCK+/+)についても同様に解析する。③ii)の解析(translatome解析)では、翻訳中のリボソームが結合した状態のmRNAのみを解析するため、その細胞が合成している遺伝子産物のmRNA量を調べることになり、必然的に、MLCK mRNAの発現の有無、MLCK発現と挙動を共にする一群の蛋白質を明らかにすることができる。また、④①及び②結果から、MLCK KOによる遺伝子発現調節への影響について検討する。 延長理由に関するpodosom研究については、MLCK KOと野生株の細胞をpodosomeを誘発させる薬剤処理又は未処理の条件で培養後、translatome解析を行いそれらの結果を比較することにより、ポドソーム形成に関連する蛋白質発現について検討する。 以上の結果に基づき、学会及び論文発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
経費を繰り越した理由は、podosomeに関するデータにある。具体的には、MLCK KO(MLCK-/-)細胞と野生株(MLCK+/+)細胞のtranslatome解析(ribosomeが3つ以上結合したmRNAのDNAアレイ解析)が平成27年度に緒についたことがある(「今後の研究の進捗方策 等」を参照)。 podosomeは、アクチン、ミオシン等の細胞骨格蛋白質が多く含まれる小器官である。この小器官に含まれる蛋白質を明らかにする。podosomeを誘発するホルボールエステル(PMA)を薬理学的ツールとして用い、PMA処理及び未処理のMLCK KO(MLCK-/-)細胞と野生株(MLCK+/+)細胞についてtranslatome解析を行い、結果を比較検討する。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品を中心に使用計画を立てた。1)MLCK KO(MLCK-/-)細胞と野生株(MLCK+/+)細胞の培養に係る経費、2)MLCK KO(MLCK-/-)細胞と野生株(MLCK+/+)細胞について、①全mRNAのDNAアレイ解析、②ribosomeが3つ以上結合したmRNAのDNAアレイ解析(translatome解析)及び③PMA処理後のtranslatome解析のための経費、3)最終年度にあたる論文発表等の経費、4)学会発表、情報交換のための経費
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