研究課題
本研究では、いまだ不明な点が多いアルツハイマー病発症の分子メカニズムをこれまでにない糖鎖の視点から探ることを目的にしている。ごく最近「バイセクト糖鎖」と呼ばれる特徴的な糖鎖がin vivoレベルでアルツハイマー病の発症を促進させることが明らかになったことから、本研究課題ではこの知見を発展させ、バイセクト糖鎖が細胞内でどのように認識され、機能しているのか、その分子機構の解明を目的とする。特に、アルツハイマー病発症において最も重要な分子の一つ、BACE1の細胞内分布がバイセクト糖鎖の欠損によって大きく損なわれることから、BACE1糖タンパク質の細胞内トラフィックに焦点を当て、アルツハイマー病発症に関わる新たな分子メカニズムを明らかにする。平成26年度では、BACE1と結合する分子の中に、バイセクト糖鎖を認識するタンパク質が存在するとの仮説をたて、BACE1と相互作用するタンパク質をマウス脳より生化学的に単離することを試みた。その結果、BACE1の免疫沈降複合体の中に、Clec4gと呼ばれる糖鎖認識タンパク質が含まれていることを質量分析によって同定した。さらに、これら2つの分子が実際に細胞で相互作用していること、Clec4gを細胞に導入することによってBACE1によるアミロイドβの産生量が減少すること、その減少はBACE1の細胞内局在の変化に起因することを見出した。これらの成果を論文としてまとめ、すでに投稿した。現在、revisionの段階に入っている。これらの成果は糖鎖認識タンパク質が、BACE1との相互作用を介してアミロイドβの産生を制御し、ひいてはアルツハイマー病発症に深く関わることを示すものである。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は予想以上に早くBACE1と相互作用する糖鎖認識タンパク質Clec4gを同定することができた。これにより、Clec4gを細胞に導入する実験を行うことが出来、Clec4gがBACE1の局在を制御してアミロイドβ産生を負にコントロールすることを示すことができた。現在すでにこれらの結果は論文としてrevisionの段階に入っていることから、本研究課題は順調に進行していると考えられる。
今後は、同定したClec4gがBACE1とどのように相互作用しているのか、糖鎖を介したものなのか、また糖鎖であるとするならばBACE1上のどの糖鎖構造を認識しているのかを明らかにする予定である。また、本研究の進展によりBACE1の細胞内局在とタンパク質安定性には酸化ストレスが深く関連していることをごく最近見出している。平成27年度以降は、この詳細な分子機序についての解析を行いたい。
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Advances in Cancer Research
巻: 126 ページ: 11-51
10.1016/bs.acr.2014.11.001