研究実績の概要 |
腎臓尿細管などの管腔面に見られる上皮細胞は、基底膜上に細胞が互いに密着しながら一層の並んだ構造をしている。腎臓尿細管上皮細胞の形態形成の破綻は「嚢胞性腎疾患」などの腎臓機能の障害に直結することから、その獲得機構の解明は非常に重要な研究課題と考えられるが、未だ詳細は十分に解明されていない。 報告者はこれまでに、腎臓尿細管上皮モデル細胞株を用いて、膜輸送に関わるSynaptotagmin-like protein 2-a (Slp2-a)に着目し、1、尿細管の管腔形成を調節すること(Mol Biol Cell, 2012、Nat Cell Biol, 2012)、2、上皮細胞の大きさを制御すること(J Cell Sci, 2014)を明らかにしている。さらに、3、腎臓尿細管上皮細胞の形態形成の破綻した遺伝子疾患である「嚢胞性腎疾患」のモデルマウスの腎臓において、Slp2-aの発現異常やSlp2-a下流シグナルの異常を見出している(J Cell Sci, 2014)。 最終年度はSlp2-aの下流シグナルに着目し、上皮細胞の形態形成メカニズムの解明を行うことにより、Slp2-aシグナルと嚢胞性腎疾患の病態発症との関連を明らかにすることを目的とした。これまでに、新規Slp2-a結合分子としてRap1GAP2とProtein phosphatase 1(PP1)を同定することに成功しており、それらがSlp2-aシグナルの下流に位置する重要なシグナル分子ezrinの活性調節をしていること明らかにした(BBRC, 2015、未発表データ)。さらに、嚢胞性腎疾患モデルラットの腎臓においてもSlp2-a下流シグナルの異常を見出し(未発表データ)、Slp2-aシグナルを調節することで新たな嚢胞性腎疾患の治療薬の開発に繋がることを期待している。
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